全国で約123万世帯にものぼるシングルマザー世帯。母子家庭の平均年収は全世帯平均年収を大きく下回り、子供たちを巻き込んで貧困状態にあえぐこととなる。なぜ貧困から生まれる負の連鎖から抜け出せないのか、シングルマザーやその子供を取り巻く環境はどう変化しているのか。ノンフィクションライターの中村淳彦氏が解説する。(出典:文藝春秋オピニオン 2018年の論点100)

 篠崎さん(仮名、46歳)はシングルマザーだ。大きな団地群の一角で、小学校に通う子供2人と暮らす。彼女は暴力体質だった元夫が暴れて空けた壁と冷蔵庫の穴、勤める介護事業所からの給与不払いを宣言する内容証明、「重度ストレス反応」と書かれた診断書を見せてくれた。貧困に加え、さまざまな不幸が重なって追いつめられた状態だった。

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「先月まで訪問介護に勤めていましたが、辞めた月の給与が支払われなかった。事業所に催促をしたら『勝手に辞めたので給与は支払わない』って。お金は本当にギリギリ。それに精神科の診断で、労働はしばらく止められています。どうしても今月と来月の生活は乗り切れない」

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 収入は児童扶養(ふよう)手当月5万2330円と児童手当月2万円、児童育成手当月2万7000円のみ。それに元夫からの養育費6万円が毎月振り込まれる。合わせて15万9330円。それに手取り月12万円ほどの給与を予定していたが、介護事業所の通告によって突然12万円が入ってこなくなり、混乱状態に陥った。