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猫と人間のあいだにしか成立しないもの

 猫はそもそも自立心の強い動物であり、犬のようには懐かない。飼い主がどれだけ愛情を注いで世話したつもりでも、愛情を返してくれるとは限らない。なかには一生、懐かない猫もいる。

 飼い主は、愛情とケアを猫に一方的に注ぐだけだが、それもまた楽しい毎日である。そんな日々だからこそ、猫がたまに飼い主に甘えてくれたとき、無上の喜びを感じることができる(実のところ猫は勝手に甘えているにすぎないが……)。もしかしたら現代社会では猫と人間のあいだにしか、このような「見返りのない愛」は成立していないのではないか。

弥生キャンパスにもかわいい猫が……。東大と猫の縁は深い

 また生まれて間もない猫を飼い始めた場合、猫と人間の関係性や役割も徐々に変化していく。飼い始めた頃は赤ん坊のようだが、すぐに成人して娘(息子)、愛人、妻(夫)のような関係となる。ときにはひとりごとの相談相手ともなってくれる。そして10歳をすぎると、老いと病を看取る老親のような存在になっていく。人間同士だと、さすがにこうはいかない。わずか20年足らずのあいだに関係や役割が変化し、重層化するからこそ、猫はどこまでもいとおしく、かけがえのない存在となる。

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 それゆえ、死に別れの悲しみや喪失感(いわゆる猫ロス)は、想像を絶するものがある。実際、7年前に愛猫・にゃんこ先生を看取ったとき、筆者も数年間、抜け殻のような人生を過ごした。筆者の周辺でも、猫ロスの辛さを忍んでいる人が複数存在している。

 してみると、猫と人間の関係性は人類史上もっとも深まっているのではなかろうか。いずれ人間との愛情や別れの辛さより、猫とのそれのほうが大きくなる人たちが登場するかもしれない。

 筆者自身は、最近ようやく猫ロスから脱却し、3 匹の猫を飼い始めた。この子たちを看取るまでは死ねないな、という決意を新たにした。これはほんの一例に過ぎないが、猫が飼い主に生きなおす勇気をも与えてくれる時代が到来したように思われる。

INFORMATION

(こちらから「淡青」のPDFにジャンプします)

東京大学広報誌「淡青」2018年9月号

特集テーマ「猫と東大。」

文学、獣医学、歴史学、社会学、考古学、雑学……猫を愛する東京大学の先生たちがそれぞれの分野で猫の世界を掘り下げます。

https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/public-relations/tansei.html