ダンカン・フィリップスが残した言葉
ダンカン・フィリップスが生涯を賭して蒐集した作品は、約1800点にのぼる。ひとつの美術館の収蔵品としてはとくに多くもないが、個人が思いを込めつつ集めたことを考えると途方もない数だ。
今展会場を巡ってすぐに気づくのは、フィリップスの蒐集にははっきりと一貫性があること。彼は晩年に、こんな言葉を残した。
“絵画は、周囲のあらゆるものに美を見出すことができるような力を与えてくれる。
私はこの生涯を通じて、人々がものを美しく見ることができるようになるために、画家たちの言葉を人々に通訳し、私なりにできる奉仕を少しずつしてきたのだ。”
誰もが美を再発見できる場たらんとした
フィリップスの集めた作品が公開されている場所は、邸宅美術館だ。それゆえ彼は室内によく似合うような、比較的小柄で穏やかさと親しみを感じさせ、なおかつ時代精神をよく映した作品を中心に蒐集した。展示のしかたも工夫を凝らし、美術史的な分類や年代順にはこだわらず、それぞれの作品が持つ美的な気質に沿って構成を考えた。観る人がアートについて啓蒙され、同時に最高の娯楽だと感じ、さらには美についての再発見までできる場たらんとしたのだ。
コレクション全体がそんな思想に貫かれているのだから、その一部がやってきた今展も、もちろん同様の雰囲気をまとう。美術全体や個々の作品についての知識などなくたって、ひと目で美しさや愉しさを感じ取れる作品が揃い、しかも作品同士が快い調和を保ちながら存在している。
居心地のよさは抜群。おそらく東京じゅうを探しても、これほど心の高揚と鎮静を一挙に味わえて、いつまでもここに佇んでいたいと思わせる場所はほかにないんじゃないか。アートが連れてきてくれる幸福感に浸ろう。