一連の「働き方改革ブーム」で残念なのは、日本のリーディング・カンパニーとされる大企業の動きが鈍かったことです。1960年代、松下幸之助が周囲に先駆けて週休二日制を導入したように、政府案よりも先進的な案を提唱して、改革をリードしてほしいものです。
とはいえ、日本型大企業のトップが改革に乗りだせないのも仕方ありません。彼らは、入社年次によって給与が一律に決まる年功序列制度のもと、適性や家庭の事情に関係なく一律に命じられる異動や転勤に耐え、育児もしないで「男は仕事」と、一律フルタイムで働いてきた。こうした画一的な価値観に適応し、勝ち抜いてきた人たちがトップに立っているのです。だから多様な働き方を認める改革など出来るわけがない。
高度成長期のように事業が急速に拡大していた時代であれば、社員を一律に扱う制度は、企業にとっては効率的だったのでしょう。しかし社会が成熟してニーズも多様化したいま、求められるのはイノベーションであり、それを生み出せるのは、多様性のある組織です。
本質的な働き方改革とは、「残業時間を一律削減」といった画一的な思考から脱却して、社員の多様性が活かせる組織になること。画一性から多様性への進化こそが求められているのです。
そして働く人には、「会社が変わらないと嘆くのではなく、自分で働き方を選ぼう」と言いたい。「いつかは会社も変わるかも」と耐え忍ぶのは経営者の思うツボ。まずは経営者と交渉する。それでも変わらないのなら転職も考える。一歩、踏みだす権利は皆さんが持っているのです。
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