米国のCEOとは10倍近い開きがある
思い出したのは11月6日に行われた三菱自動車の決算発表だ。益子修CEOは記者会見で、過去の不正問題に触れ、こんなことを言っていた。
「短期的な成果に過度にこだわる風潮があった。それが『できない』『無理です』と言いにくい状況を作っていた。利益を追求しつつも不満を持つ社員を作らない。もっと会社の中にゆっくりとした時間の流れがあってもいい」
妙に総括めいたことを言うな、と思ったが、今にしてみれば、すでにゴーン氏の件が耳に入っていたのかもしれない。
日本で指折りの年俸を得てきたゴーン氏が、なぜ会社の金に手をつけるような真似をしたのか。原因の一つと考えられるのは、日本の経営者の年俸の低さだ。文藝春秋12月号の特集「日本の富豪経営者 その実力と報酬」で書いたが、グローバル企業へのコンサルティング業務を得意とするウイリス・タワーズワトソンが日米欧5カ国で売上高1兆円を超える企業の2017年のCEOの年俸(中央値)を調べたところ、トップは米国の14億円。2位がドイツの7億2000万円、次いで英国6億円、フランス5億3000万円。日本は1億5000万円で最下位。米国のCEOとは10倍近い開きがある。
地位と報酬の「不釣り合い」を感じていた可能性
日本で暮らしている分には1億5000万円でも十分に「お金持ち」だが、米欧でのそれはトップの報酬としては安すぎる。現在、ルノーの会長でもあるゴーン氏は、主にパリを拠点としており、今や日本にくるのは「2ヶ月に1度」(日産関係者)程度。日本水準の年俸で欧州セレブの生活水準を保とうとすれば、そこにギャップがあったのかもしれない。
ちなみに『日本の富豪経営者』に掲載した2018年3月期の「年俸ランキング」では、7億3000万円のゴーン氏は14位。かつてルノーの部下で現在はトヨタ自動車の副社長を務めるディディエ・ルロワ氏(10億2000万円・8位)に負けている。ゴーン氏が地位と報酬の「不釣り合い」を感じていた可能性はある。
お金を幸福の基準と考える人にとって、大切なのは絶対額ではなく、周囲の人間との比較である。例えば今回、羽田空港で任意同行を求められたゴーン氏が乗ってきたのは、機体に「N155AN」と書かれた小型ジェット。「155」の字体は「ISS」に似ているので「NISSAN」と読める。日産のコーポレート・ジェットである。
一方、ゴーン氏が交友関係を持っていた富豪たちの多くはオーナー経営者であり、彼らは自分の金でプライベート・ジェットを持っている。米国でシリコンバレーのトップ経営者が集まるカンファレンスなどがあると、会場近くの空港は無数のプライベート・ジェットで溢れかえる。そういう場所にコーポレート・ジェットで乗り付けるのは、ハイヤーが並ぶ高級ホテルにタクシーで行くような気まずさがあるのかもしれない。