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椎名林檎40歳に 「音楽業界のおじさまが望む女」から「王道」への転換点

椎名林檎40歳に 「音楽業界のおじさまが望む女」から「王道」への転換点

2018/11/25
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ぼちぼち王道を歩かせていただいて良いですか?

 東京事変の活動を含め、さまざまなアーティストやクリエイターとのコラボレーションを通じて、彼女は“大人(アダルト)”(東京事変の2ndアルバムのタイトルでもある)と呼ぶにふさわしいミュージシャンへと変貌を遂げていく。2012年2月の東京事変の解散と前後して、11年にはNHKの連続テレビ小説『カーネーション』の主題歌を手がけ、同年末の紅白歌合戦にも出場した。

デビュー20周年を迎えた椎名林檎。2020年東京五輪の演出チームにも入っている

 近年は公的な仕事も多い。その予兆は、2014年11月、NHK総合の音楽番組『SONGS』に出演した際、2020年の東京オリンピックに向けて、ポップカルチャーはいかにアプローチするべきか積極的に提言したころから表れていた。そして、2016年のリオデジャネイロオリンピックの閉会式で、五輪旗を次回開催地の東京へ
引き継ぐセレモニーの音楽を担当。翌17年には、「東京2020オリンピック・パラリンピック」の開・閉会式の基本プランを作成する「4式典総合プランニングチーム」のメンバーに起用された。

《自分が目指していた場所は十八の頃から変わらない気がします。いろいろな段取りを済ませて、ここからが本番かなという思いです。『ぼちぼち“王道”を歩かせていただいても良いですか?』という気分です》とは、2014年のアルバム『日出処』リリース時の発言である(※3)。どれだけ大役を担おうとも、彼女の姿勢に揺るぎはない。

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「ネットで共鳴し難い言葉をわざわざ探して」曲を作る

 甘美でいて、どこか棘のある椎名の楽曲は、歳を重ねるごとに洗練されていくようだ。昨年放送されたドラマ『カルテット』の主題歌「おとなの掟」も印象深い。つい最近、同作の脚本家である坂元裕二との往復書簡で、彼女はこんなことを書いていた。

《近頃はよく、ネット上にあるあらゆる記事へのコメントから、それを発した人と、置かれた状況を想像します。そして返信コメントを投稿する代わりに詞曲を書く。つまりその時自分にとって共鳴し難い言葉をわざわざ探してはどう応えるかを考える…結果、単にこちらが学習する作業になっているし、一曲書くごとに草臥れ果てるし「やり方間違ってるかな」などと感じてもいます》(※4)

 ポジティブなものだけでなく、ネガティブなものまで飲みこみながら、作品に反映していく。その胆力こそ、彼女の創作の源なのかもしれない。

※1 『広告批評』2003年1月号
※2 『AERA』2009年6月29日号
※3 椎名林檎『音楽家のカルテ』(スイッチ・パブリッシング)
※4 坂元裕二『脚本家 坂元裕二』(ギャンビット)

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