映像を見て泣き出すスタッフもいたくらいです
――その2か月間、取材陣はどうしていたんですか?
阿武野 土方宏史ディレクターと中根芳樹カメラマンは、同じ会社の同じ報道の仲間に取材拒否されたわけですから、それはぐじゅぐじゅしてました。「取材してこい」といつもスタッフに命令してる人たちが、自分たちが取材されることになるとなぜ途端にこんな反応なんだろうという思いもあったでしょうし。
――そのとき、阿武野さんはどうアドバイスされたんですか。
阿武野 基本的に私はスタッフに「相談はするな」といつも言っていて、取材中は放置しています。ただ今回は、とにかく当初の企画は「テレビの今」を撮ることなんだから、原点を忘れないで、いつもと同じでねばるしかないなとアドバイスはしました。
――ちなみにドキュメンタリーのチームと報道部のニューススタッフは同じフロアだったりするんですか?
阿武野 そうです。ドキュメンタリー専属でやっているのは私だけで、他は報道局の記者やカメラマンとして大部屋にいます。
――同じフロアであればこそ、取材中はもちろん、放送後も居心地の悪さはあるんじゃないですか。あれだけ報道部そのものを批判的に映し出したわけですから。
阿武野 批判的ねぇ……。いろんな声があるのは確かですし、第1稿といって2時間半ぐらいの長さになった映像を制作チームで見たときは「ここまで、取材している自分をさらけ出さなくてもいいのに……」と泣き出すスタッフもいたくらいです。
60周年記念番組企画として社内を「突破」できた理由
――自分たちの報道部にカメラを回す、という企画を立ち上げたのはディレクターを務めた土方さん。その企画が「取り上げる対象があくまで自分たちであった」という阿武野さんのお考えがあって通ったのは分かりますが、そのあとに社の決定があると思うんです。ましてや「東海テレビ60周年記念番組」。そこも「突破」できたのがすごいなと思うんです。
阿武野 東海テレビはドキュメンタリー番組について、根本的には現場に任せるよ、というのが伝統なんです。もちろん、ディレクターが考えた企画書は放送を取り仕切る編成局に出します。そこで議論することも、企画書を書き換えることもありますが、それは放送を実現するためのプロセスです。基本的に制作側が決めた企画については別部署から横やりが入ったり、取り下げられたり、中身にチェックが入ることはないんです。