ありのままの東海テレビをさらけ出した
――『さよならテレビ』はどれくらいだったんですか?
阿武野 日曜日の夕方に放送して、2.8%。
――2.8%というのは……。
阿武野 相当悪いです。思っていたより、すごく悪い。いつも甘めに予想していて(笑)、今回は5~6%はいくと思っていたんですけどね。数字が低いということは、単純に言うと、それだけ多くの人には見てもらえなかったということ。ただ、放送後に130通を超えるメールが来ましたし、反響は相当なものでした。
――ちなみに『さよならテレビ』というタイトルはどなたがつけたんですか?
阿武野 土方の企画書を読んだときに「これは、『さよならテレビ』だね」って思わず私が言っちゃったんですよ。
――そうだったんですか。
阿武野 なぜ「さよなら」かって言うと、報道の現場にカメラを入れることで、自分たちの「自画像」が描ける、余所着(よそゆき)でお化粧をしたテレビ局の姿と「さよなら」したいと思ったからです。東海テレビは7年前に「セシウムさん」テロップをめぐる不祥事を起こしました。そこは、大きな反省点であり、大切な出発点だと思います。番組中でも多く取り上げました。ただ、そこからテレビとは何か、報道とは何かを問い直そうという思索と行動がまだまだできていないという気がするんです。今求められているのは、ちゃんと裸になってしまうこと、ありのままの東海テレビをさらけ出してしまうことなんじゃないかと。この人たちは裸になれるんだ、ということを示せる組織のほうが、強いはずです。むしろ、そうすることでしか過去に「さよなら」できない。次のステップは見えてこない。
「さよなら」の意味
――ちょうど開局60周年記念というのも、「さよなら」には良いタイミングだったんでしょうか。
阿武野 実はこのインタビューを受ける直前まで、外部の有識者による月1回の番組審議会だったんです。議題は『さよならテレビ』。いろんな意見が交わされたのですが、うれしかったのは審議委員長が「現状把握が大事だ。現状把握は次のステップのための一石。ここからがアクションです」と感想を述べてくれたことです。
――「さよなら」の意味がそこに。
阿武野 そうです。その通りです。テレビ局と言ったって特別な組織でもないし、多くのものづくりの企業と同じ理念を持っている。そして、視聴率、職場環境、不祥事、いろんなしがらみがあって一企業としての悩みを抱えている。何もテレビは特別な企業や組織でもなんでもないと、地域のために何が必要なのか、どういう組織であるべきかいったん原点に戻って考えた方がいいんじゃないかなと思うんです。『さよならテレビ』のさよならは、「これまで」に「さよなら」なんです。
(#2へ続く)
写真=平松市聖/文藝春秋
あぶの・かつひこ/1959年、静岡県伊東市生まれ。同志社大学文学部卒業後、81年東海テレビ入社。アナウンサー、ディレクター、岐阜駐在記者、営業局業務部長などを経て報道局プロデューサー。2019年2月2日に11作目の東海テレビドキュメンタリー映画となる『眠る村』が東京・ポレポレ東中野で公開される。