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社長に激しく罵倒された企画を実現してからの「変化」

――会社の「任せるよ」という姿勢に、「東海テレビのドキュメンタリーは攻めている」と評判になる理由があるのだと思いますが、東海テレビはどうしてそんなにドキュメンタリーに寛容なんでしょうか。

阿武野 他の局の内部の事情を知りませんから、どこがどう寛容かは分かりません。ただ、実感としてドキュメンタリーに理解はありますよね。強いてそのきっかけを探すなら2008年に放送した『光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日』が大きいと思います。この事件で逮捕された少年の弁護団会議にカメラが入るドキュメンタリーで、齊藤潤一ディレクターが企画しました。しかし、この弁護団は世間から激しい非難の標的とされて「鬼畜を弁護する鬼畜弁護団」とさえ呼ばれていました。社の上層部からは、エリア外である山口県の事件を取材し、わざわざ世論を敵に回す必要がどこにあるんだ、会社を危機に陥れるのか、と猛反対に遭いました。当時の社長にも直談判しましたが、激しく罵倒されました。ただ、取材もほとんど済んでいることや、ここで放送を取りやめる責任は私だけじゃなくあなたにも及びますよ、と社長に申し上げました。

 

――『光と影』は数々の賞を受賞することになりました。

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阿武野 批判を覚悟していたのですが、視聴者からは非常に冷静な反応が多く、それに支えられました。また、この番組の放送前にBPOの放送倫理検証委員会が光市裁判についてのテレビ報道が偏重している、「集団的過剰同調」であるとして強い批判の決定文を出したんです。そしてその中に一文、「ある地方民放局が弁護団の了解のもと、弁護団の側から差戻控訴審の過程を取材していると仄聞した。これも真実にアプローチする一つの方法であろう」と書いてあったんです。会社の先輩がこれに付箋をつけて役員室に配ってくれたことで風向きがガラっと変わりました。もし、この番組が上層部から介入されたまま、放送できなかったとしたら、今の東海テレビドキュメンタリーはなかったと思います。

「商品」になりにくいドキュメンタリーと視聴率

――『光と影』を世に問うことができたことで、社内にドキュメンタリーへの覚悟や自信、信頼が生まれたということでしょうか。

阿武野 そう自分の口からは言いにくいですけれど(笑)。繰り返しになりますが、番組を実現させるために東海テレビは、みんなが奮闘してくれていることを実感しています。

 

――ドキュメンタリー番組は「商品」になりにくいと言われます。視聴率が取りにくい、だからスポンサーがつきにくく広告収入がない。その意味では視聴率はやはり、気になる指標ではありますか。

阿武野 視聴率はとても気になります。多くの人に観てもらえているかの指標として。ある日、ドキュメンタリー番組で20%とるというのは夢です。去年、将棋の藤井聡太さんを取材し続けてきたスタッフが、これまでの成果をドキュメンタリーにした番組を作って、ゴールデンタイムに放送したら10%を超えました。でも別のドキュメンタリーをゴールデンでやったら、その半分くらいだったかな。単発、不定期のドキュメンタリーで視聴率を取るのは、なかなか難しいです。