名古屋城は江戸時代初期に建てられ、昭和に入ると国宝に指定されたが、太平洋戦争末期の1945年に空襲で天守閣などが焼失した。現在の天守閣は1959年に鉄筋コンクリートで復元されたものだ。ただ、これも築60年近くが経ち老朽化も著しい。現在、名古屋市では河村たかし市長が木造による再建計画を掲げ、議論となっている。

 名古屋城のシンボルといえば金の鯱ほこだ。いまから80年前の正月早々、その金鯱の鱗が盗まれるという事件が起きている。きょう1月27日には犯人として大阪在住のミシン職工の男(40歳)が逮捕された。

 男は1月4日夜、天守閣の屋根まで登り、北側の雄の鯱の鱗58枚分の金板2枚をはぎ取った。このとき天守閣には市による築城調査のため櫓(やぐら)が組まれており、彼はそれをつたい、金鯱を覆っていた金網も破って犯行におよんだのである。鱗が盗まれたことは3日後の7日朝、調査技師によって発見された。

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©iStock/winhorse

 江戸時代にも柿木金助という盗賊が大凧に乗って金鯱の鱗を盗んだという伝説があり、世間ではその再来と話題を呼んだ。ただし、盗難発見当日の夕刊に第一報が出てすぐ報道が禁じられ、犯人逮捕の翌日まで詳細は伝えられなかった。この間、警察は全国に捜査網を敷く。

 犯人の男は大阪に戻ると、鱗を鋳つぶそうとしたものの、原型を変えた程度にしかならなかった。すっかり持て余して一部を売却、さらに残った分を金属時計店に持ちこむ。これを不審に思った店側が通報、逮捕にいたった。

 男は広島生まれで、のち大阪に転居、18歳で強盗事件を起こしてからというものたびたび犯罪に手を染める。2度目の服役が名古屋で、出所後、懲りずに金鱗奪取という挙に出たのだった。当時の新聞によれば、別れた妻子を探す資金をつくろうとしての犯行であったという。公判では懲役10年が言い渡された。

 日中戦争前夜にあたる当時の名古屋は、3月~5月に汎太平洋平和博覧会の開催を控え、国鉄(現JR)の名古屋駅が現在地に移転して新駅舎が落成(2月1日)、また「東洋一の動物園」と謳われた東山動物園が開園する(3月24日)など活況を見せていた。三菱重工業の名古屋航空機製作所(現・名古屋航空宇宙システム製作所)でゼロ戦の開発が始まり、愛知県挙母町(現・豊田市)を本社にトヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)が設立されたのもこの年である。