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須田ファンの女性との出会い

――お、かわいい。

 間違いなく今回の参加者で一番の美人である。横浜DeNAベイスターズオフィシャルパフォーマンスチームdianaのセンターを文句なしで務められるようなルックスであり、その二重まぶたが印象的な瞳に、まじまじと見つめられでもしたら、石になってしまいそうだった。私は案の定、緊張で固まりそうになる口をモゴモゴと開いた。

「えーと……、す、好きな野球チームはどこですか?」

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 また言ってしまった。失敗を次に活かせず、同じ失敗を繰り返す。だから婚活パーティーで20連敗もするのである。急に喉が渇いてきた。アイムサースティー。たまらず、ウーロン茶が入っているグラスに手を伸ばした。しかし残念、中身は既に空でした。こんな風に、静かに混乱する私を見据えると、彼女は、力強く言い切った。

「私、ベイスターズファンです!」

ついに奇跡は起きた……

 それは思いがけない奇跡だった。興奮する気持ちを落ち着かせながら、精一杯渋い声で「奇遇ですね。僕もベイスターズファンです」と答えた。だが、心臓の鼓動が次第に高鳴っていく感覚を痛いくらいに感じる。何も入っていないグラスに軽く口をつけ、できる限り最大限の笑顔を作ると、彼女の言葉を待った。まだ油断してはいけない。調子に乗って、自分が如何にベイスターズを愛しているかを語ってはいけない。好きな選手を聞かれたら無難に答えるべきだし、1998年を熱く語るのなんて以ての外であり、ドン引きでもされてしまったら後の祭りである。

 すると、彼女は同好の士に会えたのが、よほど嬉しかったのか堰を切ったように話し始めた。

「ベイスターズファンに会えて嬉しいです! 私、特に須田(幸太)選手が好きで、登場曲の『GUTS!』が流れたら、めっちゃテンション上がります!」

 早口でまくし立てる彼女を見て、まるで無人島の中で仲間を見つけたような気持ちになった。私もベイスターズの中では須田が一番好きなのである。ピンチに颯爽と登場、まさに糸を引くようなストレートで強打者を抑え、堂々とマウンドを降りる姿がたまらなく格好良かった。私達はマシンガントークを続けた。今シーズンのベストゲームや個人的なMVP、1998年のとき何歳だったか、そして須田の退団についても。たった5分間だったけど、それはそれはとても幸せな時間だった。できればもっと長く彼女と過ごしたかった。

そして、ゲームセットの時が来た……

 結局、彼女とはカップルになれなかった。恐らく女性陣の中で一番人気だったであろう彼女は、やはりこちらも男性陣で一番人気だったと思われる、カッチリとジャケットで決めたイケメンとカップリングしたのである。ちなみに私は誰ともカップリングできなかった。

 でもそれでいい。またいつか、球場で。たとえ座席の距離は離れていても、好きな選手がいなくなっても、同じグラウンドを見て、同じチームを応援できればそれでいい。世の中『GUTS』があればなんとかなる。そんな風に格好つけながら、横浜の街に溶けていった。辺りはもうすでに夜になっていて、キラキラとした街全体がまるでイルミネーションのように見えた。そうか、もうクリスマスだったんだな。

平成最後のクリスマス ©iStock

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