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「君のグラブはまだ使えるよ」

 2018年にオープン2周年を迎え、売上も右肩上がり。そんな中でも、宇佐美には売上以上に意識している“信念”がある。

「商売なので、お客さんには商品を買ってもらいたい。でも、まだまだ使える状態の道具があるのに次々と買い換えてしまうのは、野球少年にとってよくないと思っていて。新しいグラブを買いに来た少年に、『君のグラブはまだ使えるよ。もう少し経ってからまたグラブを見せて』と諭したこともあります」

 この返答を聞いた少年は、その場で号泣。宇佐美も「気持ちは痛いほどわかります」と苦笑交じりに振り返る。

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「新しいグラブが欲しくて、親を何とか説得して、やっとの思いで店に来たのにグラブを売ってくれない。そのやるせなさ、悔しさは相当なものだったと思います。でも、それ以上に『物を大切にする』ことを知ってほしかった」

 約半年後、その少年はグラブを携えて再訪。使い込まれながらも丁寧に手入れが施されたグラブ、「見てください!」と言う少年の誇らしげな表情は今でも鮮明に思い出せるという。

「『おお! よくここまで使ったなあ!』と嬉しくなりましたね。新しいグラブを購入してくれましたが、彼はこれからも道具を大切にするはず。商売であることを意識しつつも、『伝えるべきことを伝える』ことを大切にしていきたいですね」

埼玉県戸田市にある野球用品専門店「ロクハチ野球工房」 ©井上幸太

「ロクハチ野球工房」の店名と、「コツコツが勝つコツ」というキャッチフレーズ。ここにもプロ野球選手、ビジネスマン両方を経験した宇佐美の思いが詰まっている。

「再び野球に携わるなら、現役時代の『68』を背負って勝負したいと思って決めました。『コツコツが勝つコツ』は営業マン時代の先輩に教わった言葉で『どの道にも通ずる!』と使わせてもらっています。プロ野球選手とビジネスマン、両方を経験したからこそ今があると実感しています」

 酸いも甘いも詰まった背番号と、異業種で懸命に働いたからこそ出会えた座右の銘。両方の世界で得た掛け替えのない宝を胸に、これからも野球と向き合っていく。

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