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僕らはいつも「輝く賢介」を待っている――ファイターズ・田中賢介という内野手の回想

文春野球コラム ペナントレース2019

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賢介はみんなの心の「野球」と関係があるのだ

 東京ラストゲームはファンの同窓会だった。球場から足が遠のいていた人も、東京ファイターズをこじらせたままの人も、北海道から駆けつけた人も、要するに田中賢介にあの場に呼び出された。賢介はみんなの心の「野球」と関係があるのだ。賢介を見なくては、見届けなくては、みんなの心の「野球」が宙ぶらりんのままになる。みんな納得できないのだ。賢介はただのプレーヤーではない。

 8回裏ファイターズ最後の攻撃、先頭西川が投ゴロで倒れ、4番中田が四球を選んだ。スタンドが沸く。1人出れば賢介まで打順がまわってくる。続く5番近藤の打席、みんな、三振でもいいからゲッツーはやめてくれという気持ちになっていた。可能性が高いのは火の出るような1塁ライナーで飛び出しゲッツーだろうか。賢介にもう一打席やりたい。賢介コールをしたい。気負ったせいかここまで賢介は3の0だ。と、近藤は平凡なセンターフライを打ち上げた。場内は拍手喝采。フライアウトになってあんなに拍手をもらう近藤を見たことがない。

田中賢介応援中の筆者。後ろの列はの長年の応援仲間 ©えのきどいちろう

 2死1塁で賢介の出番だ。ものすごい賢介コールになった。

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 けんすけぇぇぇ、けんすけぇぇぇ、けんすけぇぇぇ、けんすけぇぇぇぇ。

 そして応援歌が始まる。

 どこまでも飛ばせ、賢介ガッツだ GO GO GO
 僕らは待つよ 輝く瞬間

 あんなに輝かしい球歴を持った選手に僕らは待つと歌い続けてきた。それはプロの壁に阻まれ、もがいていた若き日の姿に重なる。いや、そうじゃない。僕らはいつも次の「輝く賢介」を待っていたんだ。まだ先があると信じていたんだ。

 第4打席はレフトフライだった。結局、東京ラストゲームはノーヒットだ。僕は立ち上がって拍手を送った。スタンディングオベーションにふさわしい勇姿だった。東京が終わってもまだ残り試合がある。まだ泣かないと決めた。輝く瞬間を待っているから。まだ終わりにできないから。

田中賢介のイメージカラーはピンク。女子に人気があります ©えのきどいちろう

 追記、その後、賢介は14日のソフトバンク戦(札幌ドーム)9回2死から代打で登場、見事センター前ヒットを放った。通算1500本安打まであと5本である。

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