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後輩・大瀬良大地が生きる希望だった……余命宣告を受けたあるカープファンの物語

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/09/18
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大瀬良がサプライズで病室に……笑顔で語らった45分間

 2015年11月。士さんは、『余命2、3か月』と宣告を受ける。しかし彼は、「仕事と好きな野球がしたい」と言った。御両親は、そんな息子を喜ばせたいと、大学のつてを頼り、息子にある贈り物を催した。それは、本人に内緒で病室に「希望」である大瀬良大地が現れるサプライズ。すべては「僕に出来ることがあれば何でもしますよ」と、夫婦の想いを受け止めてくれた大瀬良のやさしさだった。

 大学時代の思い出や、教員生活の話……。共に九州共立大で教員免許を取得した二人は、昔からの友人のように笑顔で語らった。御両親は、その時間が「息子の人生で最も幸せな45分だった」と後に語ってくださった。

 それから3か月後の2016年2月――。最期まで懸命に生き抜いた士さんは大好きだったカープの25年ぶりの優勝、後輩・大瀬良の歓喜の涙を見届けることなく、「ありがとう」の言葉を残し、27年の短い生涯を終えた。

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本人に内緒で病室に現れた大瀬良大地

 しかし、士さんの野球愛を受け継ぐように御両親は今も野球のそばで生きている。「大地くんの活躍が今では夫婦の楽しみです」と微笑み、父・一人さんは、時間を見つけてはマツダスタジアムに足を運び、息子と同じ歳になった大瀬良の写真を撮っては自宅やカープグッズを取り扱う知人の店に飾り、オフシーズンには、母・日登美さんと二人で大瀬良の出演イベントに参加し、歳を重ねるごとに逞しくなっていく大瀬良に声を掛け、彼の仕草や表情に息子の面影を重ね合わせている。

 士さんが教壇に立っていた北九州市の小倉では、当時の野球部の顧問の先生らが、士さんの命日に『中林杯』という野球大会を行い、彼が野球を愛した証、教員だった証を残している。

「士がくれたご縁を大切にして、
 今度は、私たち夫婦が周りの人へ
 お返しをしていきたいんです」

 中林ご夫妻の手紙にあったその一文。愛する息子が生きた証のために息子が愛した野球を愛していこうという固い決意。そんな想いが伝わってくる言葉だった。

亡くなる前日の家族写真

 最後に、このエピソードの掲載を快諾してくださった中林ご夫妻、交流するきっかけを生んでくれた番組『鯉のはなシアター』に感謝を伝えるとともに、真っすぐな野球人・中林士さんのご冥福をお祈り致します。

写真提供/中林ご夫妻

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