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丸佳浩移籍の“心の傷”が癒えない理由――あるカープファンの面倒な思い

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/09/06

 ペナントレース終盤。巨人が優勝に向けて首位を独走する中、ベイスターズがそれを猛追。世紀の大逆転があるのか、それとも巨人が逃げ切るのか。目の離せない日々が続いている。

 球団史上初の3連覇という偉業を達成、実績と勢いで4連覇を狙った我がカープであるが、すごく弱いのか、あるいはすごく強いのか。謎の大失速と急上昇を繰り返した結果、現在は「目指せCS!」という位置に甘んじている。もしこのまま巨人が優勝したら……。そんなことを考えた時、ふと「ある男」の顔が思い浮かんだ。丸佳浩である。巨人が優勝するということは、丸もそれを味わうということ。自分にとって、これはかなり厄介な問題である。

 ベイスターズにも可能性があるのであくまで「仮」。その前提で、巨人が優勝し原監督が胴上げされる姿を想像する。悔しい。本当に悔しい。でもそれは来季への原動力になる。ただ、その先。優勝の輪の中で喜ぶ丸の姿を見たら、今度は悔しいなどの感情ではなく、シンプルに「傷ついちゃうな」。そう思ったのだ。相思相愛、結婚を考えていた相手が急に別の人と付き合い始め、とてつもなく幸せそうにしている姿を見るような感覚とでも言えばいいだろうか。優勝したチームに対しては「来年こそ」あるいは「見返してやる」と思えるが、去った選手に対しては抱く感情の種類がまったく違う。相手が「個人」であるため、来年とか見返すとか、具体的な解決策を見つけることができないのだ。

どう頑張っても丸を目にしてしまう苦しみ

 丸がカープへの入団会見で「前田(智徳)選手のようになりたいです」と言った時、前田信者である私は「はい合格!」と瞬時に惚れた。成長する姿を見ながら「本当に背番号1の後継者になるかもしれない」とワクワクした。別に移籍した丸のことを憎んでいるわけじゃない。それどころか、いまも最高のバッターとして認めている。ただ。ただひとつだけ言わせてほしいのは、結果としてカープを去ったのだから、去られた側、つまりファンの気持ちを、丸のみならず、FAで移籍した(する)選手には自身が思う何倍も何倍も考え、しっかりと理解をしてほしい。そういうことなのだ。

2007年の新入団選手発表 前列左から、安部友裕、ブラウン監督、篠田純平 後列左から、中村憲、丸佳浩、小窪哲也、松山竜平、山内敬太

 選手がFA権を取得する。ファンはその去就に注目しながら応援を続ける。願いも虚しく宣言される。そして移籍される。言うまでもなく傷つく。その感情が一時的なもので終わればいいが、それでは済まない。入団会見で移籍先のチームのユニフォームを着た姿を見る。キャンプに入り、そのユニフォームで練習する姿を見る。シーズンに入れば移籍先のチームと戦い、嫌でも本人を目にすることになる。その度に傷つき、やり場のない感情が心に刻まれる。かつての恋人であれば連絡しないようにしたり会わないようにしたりすればいいが、野球は無理。どう頑張っても目にすることになってしまう。

 カープは3連覇という偉業を果たした。我が地元の広島ではその度にいくつもの局で特番が組まれ、3時間、4時間など当たり前、中には深夜枠で朝までやっていた番組もある。スマホの通信制限に怯えるかのごとく、熱狂的なファンはそれらを徹底的に録画しまくり、ハードディスクの容量と必死で戦う。DVDやブルーレイに、せっせと焼く。今年は厳しいシーズンになったから、強かった去年までのカープの映像で気分を紛らわせ……あゝ無情。そう、そこには丸がいる。ああ、丸だ。ガンガン打ってる。笑ってる。赤い。本来であれば「喜び」しかないはずの優勝やそれに伴う映像にかつての恋人が映っていて、ひたすらテンションが下がるのだ。そういうシチュエーションが生活のあちこちに散らばっているのだ。