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ライバルたちよ2019年もありがとう、2020年もまた野球の「試合」を楽しみましょう。

「あらしのよるに」という物語があります。ある嵐の夜、暗闇のなかでそれとは知らずに出会ったオオカミとヤギが、秘密の友情を育み、種族を越えて通じ合う物語です。本来は敵である両者が、嵐に怯えるなかで肩寄せ合う仲間にもなる。ときに恐れたり、ときに嫌ったりしながらも、やっぱりそばに友だちがいることが尊い。そんな物語です。

 同じように、試合がない台風の夜は、ことさらにライバルたちが恋しくなります。負ければ腹も立ちますし、勝てば鼻高々に見下ろすこともありますが、ライバルはやっぱり必要だし大切です。自分ひとりではできない試合を、懸命にやってくれるライバルがいる。コチラが勝ったら本気で悔しがり、コチラが負けたら胸を張って勝ち誇っている、そんな相手あってこそのプロ野球です。

 あぁ、早く会いたい。

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「試合」をしたい、「試合」を見たい。

 オリックスは今季も早々にごく薄ーい優勝の可能性が消え、CS進出の薄ーい可能性も消えましたが、きっちり143試合を戦いました。ボーナスステージはないけれど、143試合も戦いました。もしもオリックスファンのなかに「失われし近鉄バファローズ」の幻影を抱いて見守っている人がいるなら、試合があることの喜びがいかばかりか、きっとご理解されているでしょう。

 東北楽天ゴールデンイーグルスが誕生したとき、それはもう惨敗のシーズンではありましたが、スタンドは喜びで満ちていたはずです。そして、2011年に「野球の底力」を信じ、2013年に「野球の底力」によって励まされ、さらに喜びは大きくなったはずです。プロ野球がある、試合があることはこんなにも尊いことなのかと。たとえ、西武とヤクルトの寄せ集めのような陣容になろうとも、決済手段が楽天ペイに限られようとも、応援歌の歌詞がほぼ「GO」と「カズキ」のみという語彙力であろうとも、「試合がある」ことは尊いのです。

 クライマックスシリーズに進出した各球団はもちろん、2019年を戦い、たぶん2020年も「試合がある」各球団のファンは、それだけで十二分に幸せなのです。ライオンズファンは惨敗つづきにちょっと荒れ模様ですが、143試合のほかにまだ試合を見られるなんて、文句なしで楽しいじゃないですか。最低でも「4試合」も見られるんですから。そして、上手くいけばまだ10試合くらい見られるかもしれないんですから。自分のチームがあって、ライバルのチームがあって、試合がある。勝ったり負けたりできる。こんなに素晴らしいことはない!

 巨人さん、セ・リーグ優勝おめでとうございます。CSも好調ですね。最後まで試合をお楽しみください。

 横浜さん、本拠地でのCS開催おめでとうございます。自分の球場でCSができてよかったですね。

 阪神さん、最後のほうは「生きてるだけで儲けもの」の試合でしたね。奇跡の勝ち上がり大興奮です。

 広島さん、會澤翼選手の残留おめでとうございます。居心地のよい、離れがたい球団なんでしょうね。

 中日さん、審判と戦うのは止めましょう。審判ではなく相手球団と戦うならば全力でお相手します。

 ヤクルトさん、村上覚醒おめでとうございます。村上おめでとうございます。村上おめでとう。祝村上。

 ソフトバンクさん、負ける前提でのメッセージとなりますが、今年も打倒セを期待しています。「西武じゃない、ウチのソフバンがやる」の精神で。このCSが事実上の決勝戦だったと言えるような強さを見せてください。

 楽天さん、西武の手持ちのコマがなくなってきました。しばらくの間、お買い物はヤクルトあたりからお願いします。山田哲人、そろそろですよ。

 ロッテさん、最後まで優勝争いお付き合いいただきありがとうございます。来年は「西武1位、ソフバン2位、ロッテ3位」で、ロッテさんにソフバンさんを先に倒してもらえるようアシストできればと思います。ともに戦いましょう。

 日本ハムさん、現実球団は戦いを終えていますが、文春野球コラムでの打倒セを期待しています。チームプレーで頑張ってください。

 感謝、感謝、すべてのライバルたちに感謝です。

 さぁ、この原稿が入稿されたあと、我が埼玉西武ライオンズはシーズン最後の戦いに臨みます。文春野球西武チームはすでに敗色濃厚となっておりますので、おそらくはこの原稿が西武チーム最後の記事となるでしょう。しかし、現実野球はまだ何かが起きる可能性があります。

 かつての黄金時代には日本シリーズで1分3敗からピッチャー工藤公康のサヨナラタイムリーをきっかけに4連勝した球団です。「延長12回サヨナラのチャンスでピッチャー工藤をそのまま打席に送る」という、その試合を落としていればSNSでクソオブクソと連呼されそうな采配でしたが、その1本のタイムリーでガラリと流れは変わりました。今のライオンズにもそういう瞬間があるかもしれません。勝つにせよ、負けるにせよ、ライオンズらしい野球で「見に来てよかったね」と思ってもらえるような試合を最後までやりましょう。台風のようにバットをぶん回して三振の山を築け!

 この原稿を入稿するまで現実西武が敗退しなかったことは、本当によかったです。もしも予定通りの日程で4連敗でもしていようものなら、やっぱりその話をしないとヘンですよね。反省とか敗因とか。「優勝したけど辻監督解任論(※辻は1点しんにょう)」「投手コーチが無能説VS投手が無能説VS両方説」「ソフバンがちゃんと優勝しないのが悪い」などの愚痴っぽい記事になったに違いありません。でも、まだ「試合がある」のですから、この原稿を送るときは希望だけを見ていればいい。

 この記事が公開された頃、僕は「14日のチケット」を持って球場に向かっていられるでしょうか。負けるんだろうなぁと思いつつも、最後まで何かが起きるかもしれない「試合」を見守るために。そして、案の定負けたなら「次の試合がある」と来年のことを思うのでしょうか。今度こそ日本一だと闘志を燃やして。「試合がある」のならば何だって起きるかもしれません。今年は終わっても、また来年があります。希望は少し時間が空くだけでまだつづきます。何も終わったりはしないのです。

 台風によって試合がなくなった日。

 改めて「試合がある」ことの喜びを感じた日。

 風の音はさらに強まってきていますが、この台風が過ぎたあと、また野球が見られることを祈ります。文春野球をご愛読のプロ野球ファンのみなさん、どうぞ「試合がある」ことの喜びを噛み締めてください。他球団の試合は興味ないかもしれませんが、ないよりはマシだと思って「試合」を楽しみましょう。来年もまた現実野球で戦えることを楽しみにしております。

 さぁ、「試合」に行くぞ。

 野球最高! それじゃあ、行ってきます!!

 See you baseball freak……

©時事通信社

※編集部注:埼玉西武ライオンズはこの原稿が入稿されたあとの13日にクライマックスシリーズ敗退が決まったため、本原稿が公開された14日の試合はありません。

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