なぜ女性は母親の遺体を“放置”したのか?
80年代、その女性は母親の遺体を自宅に放置した罪で書類送検されていました。と言っても、彼女は母親を殺したわけではありません。おそらく病気などで自然と亡くなった母親を火葬に出さず、そのまま自宅に置いておいたのです。
葬儀の費用が払えないから、あるいは今まで貰っていた年金がなくなると困るから、との理由で家族の死を届け出ずに隠蔽しようとする……といった話は時々耳にします。しかし、この女性の場合は事情が大きく異なっていました。彼女は、自分の母親を“生き返らせる”ため、その遺体を自宅に放置していたのです。
実は、彼女は「蘇生信仰」を持つ祈祷師の“信者”でした。その祈祷師は、自分には死んだ人を蘇らせる力があると主張し、信者である彼女もそれを深く信じていたようです。
このときも、彼女はおそらく病気などが原因で亡くなった自分の母親を生き返らせるため、祈祷師に蘇生を依頼。祈祷師は自分の“信仰”に従って、なんらかの儀式を続けていたようです。しかし亡くなった人間が蘇るはずもなく、結局遺体は腐敗が進み、その臭いに気づいた近所の住人から通報があり、事件が発覚した……というのが、だいたいのところだと思います。結局、彼女は祈祷師とともに死体遺棄の容疑で書類送検されました。
「誰かに蘇生してもらいたい」
それから20年以上が経ち、彼女の自宅で3人の遺体が発見されました。互いに殺し合ったり、集団自殺を試みたわけでもない、奇妙すぎる状況。しかし、彼女がかつて蘇生信仰を持つ祈祷師の信者だったこと、彼女自身が間もなく死を迎える年齢だったこと、そして近所の人たちが「太鼓の音やお経の声」を耳にしていたことから考えると、こんなシナリオが浮かび上がります――。
母親の蘇生に“失敗”したその女性は、20年以上の時を経て、やがて自らの死期が近づいていることを悟ります。祈祷師の力があれば死者も蘇ると信じていた彼女が、そこで考えるであろうことはおそらく1つ。自分が死んだら、誰かに蘇生してもらいたい、ということでしょう。