筑波大学附属駒場中学校・高等学校、通称「筑駒(ツクコマ)」は、全校生徒の約6〜7割が毎年東大に合格するという、日本屈指のエリート校だ。だが、同校の卒業生である森林原人は、軒並み東大へと進学した同級生たちを横目に、19歳でAV男優としてデビュー。以後20年以上に及ぶキャリアの中で、約1万人の女優と絡んできた。

 はじめは「自傷行為」として飛び込んだAV業界だったが、着実にキャリアを積みながら、次第にやりがいや手応えを感じ始めた森林。しかし、まもなくその身に大きな転機が訪れる。親にAV出演が知られてしまう、いわゆる“親バレ”だ。そのとき彼は両親といかに向き合い、何を語ったのか。(全3回の3回目/#2より続く

 

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「親バレしたのは、男優2年目のとき。5月の母の日のことでした」

 森林は少し俯きながら、記憶を探るように語り始めた。「大学から親に『お子さんの履修届が出ていない』って連絡があったんです。そのころ、僕はもう全然大学に行ってなかった。けど、男優の仕事のために、毎日『大学に行く』って嘘をついて出掛けてたんです。だから、お前は何をやってるんだ、話を聞かせろってことになって」

 森林はリビングのテーブルに、両親と向かい合わせに座った。しかし、数分間は誰も口を開かなかったという。気まずい空気が流れるなか、最初にその沈黙を破ったのは厳しい父でも、覚悟を決めた森林でもなく、いつも優しい母だった。「いきなり『何の宗教やってるの』って言われたんです。たぶん、親なりにいろいろ考えを巡らしたんでしょうね。当時は、頭のいいやつが道を踏み外すと言えば、宗教だったんです」

 

「親を泣かせるだけだったら、辞めてたかもしれない」

 母の思わぬ一言に驚いた森林は、「宗教なんてやってないよ。AV男優をやってるんだ」と答えた。「むしろ心配をかけさせないように、と思って言ったんですが、もちろん2人とも猛反対で。母は唖然としていて、父はしっかりと言葉で怒りを表しましたね。そんなことをさせるために育ててきたんじゃない、自分が何をしてるかわかってるのか、と」

 その反応は予想通りではあったものの、ここまで“怒り”が前面に出てくるとは思っていなかったという。「もともと親を悲しませたくない、という思いはずっとあったんです。一番覚えてるのは……小さい頃に、母親の財布からお金を盗んでいるのを見つかったことがあって。ビックリマンチョコが欲しくて、こっそり財布からお金を抜き出していたときに、パッとドアを開けられて。そしたら母親が固まって、僕を見ながら何も言わずにボロボロ涙を流したんです。その記憶がずっと頭にあって。だからこのときも、そんな風にただただ親を泣かせるだけだったら、男優を辞めてたかもしれない。でも、このときは怒りだったから……だから、話ができたのかな」

高校1年時の文化祭で祖母と(本人提供)

一生取り戻せないと思っていた“2年の出遅れ”

 それまでの2年間、森林も「このままでいいのか」という思いは抱え続けていた。「やっぱり後ろめたい気持ちもありました。でも、友達は本格的に就職活動を始めていて、銀行にしたとか、国一受けたとか、早いやつは司法試験受かったとか、そういう話が聞こえてくるんです。そうなると、もう自分にはこれしかないな、と。今の年齢で思えば、全然やり直せるんですよ。2年なんか、全然取り戻せるよって思うんだけど、浪人もしていたし、当時はこの出遅れは一生取り戻せないって思っていて」