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なぜ名門男子校・麻布は「反体制派」を量産するのか

いまでも息づく創立者・江原素六の理念とは

2019/11/23
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『男子御三家』(文春新書)

 わたしは先日の記事で「男子御三家」と呼称される麻布・開成・武蔵の概要を紹介した。この記事はわたしの最新刊『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』(文春新書)の一部を抜粋、修正を加えたものである。

男子御三家の卒業生のタイプをたとえると

 わたしはこの本を著すにあたって、男子御三家各校の学校関係者、卒業生たちに取材を重ねた。

 そして、彼らは中高6年間で身につけた各校独自の「カラー」が、いまでも各自の行動規範に影響を及ぼしていることを感じたのだ。つまり、彼らそれぞれに「麻布的な何か」「開成的な何か」「武蔵的な何か」を感じ取ることができたのだ。

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 それらの特徴をまとめようと、わたしの経営する中学受験専門塾のスタッフたちと各校の卒業生たちに一脈通じる「性質」のたとえ話を考えたら、夜遅くまで盛り上がってしまった(弊社のスタッフには開成出身者が2名、武蔵出身者が1名いる)。

 その結果、「プラモデル」を用いたたとえ話がぴったりだね、という結論に達した。ここに開陳したい。

 もし複雑なプラモデルを組み立てるのであれば?

・麻布生……組立説明書は無視、感覚だけで独創的かつ味のある逸品を製作する。
・開成生……組立説明書を一言一句しっかり読み込み、精巧で完璧な作品を製作する。
・武蔵生……組立の途中で各パーツにのめりこんでしまい、なかなか作品が完成しない。

©平井さくら

 そして、それぞれの特徴を二字熟語に落とし込むと次のようになる。

 麻布は「鬼才」。
 開成は「秀才」。
 武蔵は「変人」。

 もちろん、どれも「褒め言葉」である。男子御三家各校の卒業生たちに取材していると、出身校別に共通する「才知」がひしひしと感じられたのだ。

 それでは、3回にわたって男子御三家各校の教育の特質の一端を紹介していきたい。

 今回取り上げるのは「麻布」である。

ウィキペディアには300名以上の卒業生が

 4年前に創立120年を迎えた麻布。

 麻布の進学校としての実力は昔より揺るぎがない。1954年以来、70年近く東京大学合格者数ランキングのトップ10に顔を出している。これは現在東京大学に最も多くの合格者を輩出する開成でさえなしえていない偉業だ。

麻布中学・高校の正門 ©文藝春秋

 麻布の卒業生は多岐に渡る分野に進出している。政財界、法曹界、文学界、学術分野はもちろんのこと、高学歴が求められていない世界にも進出している人が多いのも特徴的である。ウィキペディアの「麻布中学校・高等学校の人物一覧」を見ると、輩出した著名人の多さに舌を巻く。その数、何と300名以上。