わたしは前回、前々回の記事(なぜ名門男子校・麻布は「反体制派」を量産するのか東大進学NO1・開成生は、なぜ何よりも「運動会」を重要視するのか)で男子御三家各校(麻布・開成・武蔵)の卒業生たちのキャラクターについての「たとえ話」を紹介した。次のようなものだ。

 もし複雑なプラモデルを組み立てるのであれば?

・麻布生……組立説明書は無視、感覚だけで独創的かつ味のある逸品を製作する。
・開成生……組立説明書を一言一句しっかり読み込み、精巧で完璧な作品を製作する。
・武蔵生……組立の途中で各パーツにのめりこんでしまい、なかなか作品が完成しない。

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©平井さくら

武蔵は「御三家」から凋落したのか!?

 今回紹介するのは東京都練馬区にある「武蔵」。広大なキャンパスと敷地内の豊かな緑が印象的なキャンパスだ。そこに一歩足を踏み入れると、周囲からの雑音が消え、清々しい空気に包みこまれたような気分になる。

 30年程前までは東京大学合格者数ランキングでベスト10入りの常連であり、一時期は90名近い合格者を輩出したこともあった武蔵。しかし、東京大学合格者数はその「全盛期」と比較すると低迷気味であり、その状況を指して「武蔵は御三家から凋落した」などとメディアがシニカルに書き立てた時期もあった。2019年度の東京大学合格者数は22名(全国第27位)。もっとも、卒業生数(高3の1学年)が約400名の開成、約300名の麻布に対して、武蔵は約160名と少ないのではあるが。

武蔵は「受験勉強」をするところではない

 公立大学の准教授を務める40歳の卒業生は武蔵で教員から言われたことばをよく覚えている。

「ぼくは高2・高3のときに同級生集めてセンター試験の問題を解く勉強会を開こうと考えたのですが、『受験勉強なんか学校でやるもんじゃない。ここは学問をやる場所だ』と先生に却下されました(笑)。この学校は中学校に入った瞬間、『諸君、学校は学問をしにくるところです。勉強は各自勝手にしなさい』と叩き込まれるのです」

©iStock.com

 この話を武蔵の副校長の高野橋雅之先生に振ってみた。ご自身も武蔵の卒業生である高野橋先生は微笑んだ。

「入学直後に教師から『教師の言うことを信じるな』と言われました。そして、世の中のテレビや新聞に書かれていることを鵜呑みにするなよ、と。自分で1次情報をちゃんと集めて、それを基にして自信で判断する。そんな姿勢を6年間で身につけなさいということだったのでしょう」

 この武蔵のスタンスはいまも昔も変わっていないという。