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乾真大が投げ続ける理由

 7月が過ぎ、その年のNPB復帰がなくなった。そこから乾はマウンドに上がっていない。専任コーチとして選手のサポートに集中した。

「それまでは、いい意味でリリーフに僕がいたから、そこまで繋げば良かったんです。8月からの方が苦労しました。すごく頭を使って勉強になりましたね」

 終盤は試合前にノックバットも握り、野手も鼓舞してチームを支え続けた。最終的には練習生を選手として試合に出すため、選手登録から練習生登録にすらなった。

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 9月の最終戦、富山は敗れて西地区3位でシーズンが終了した。試合後の乾に、「しんどいシーズンでしたか?」と質問した。思うようにいかない苦しいシーズンにも見えたからだ。しかし、意外な言葉を聞いたというように、乾は言った。

「しんどい? いや、やり甲斐しかなかったです」

 シーズン中、聞いた言葉は常にポジティブだった。頭を使い体を使って、二岡監督と二人三脚で、懸命に選手のために過ごしたシーズン。経験が足りない分、色々反省もある。けれども、勝ち負けだけではないものを得た。選手の成長を感じ取れた。意識の高いチームになった。それは何よりの喜びだ。

「今が一番いい」と言った2018年。「やり甲斐しかなかった」2019年。聞けば選手としても、今年は去年より更に良かったという。体も去年よりずっと動くし、真っすぐのレベルがまた一つ上がったというから驚く。

終盤は試合前にノックバットも握り、野手も鼓舞してチームを支え続けた ©HISATO

 乾は富山を退団した。来季BCリーグに参入する神奈川フューチャードリームスへ入団し、現役を続ける。富山の2年を振り返り、「もう一回、心の底からちゃんと野球が出来た」と感謝する。向かう先は新設球団。苦労もあろうが「刺激があった方がいいじゃないですか。新しいチームっていたことないし」とやはり前向きだ。環境へ適応する力は人一倍。

「僕は別にその辺の芝生でいいから。ボールとグローブあれば。キャッチボールできるスペース60mくらいあったら。あとブルペンがあったらオッケーなんです」

 BCリーグは、「ベースボール・チャレンジ・リーグ」なのだ。それは誰にとっても。乾の挑戦は続く。その原動力は何なのだろう。

「NPBに戻るっていう目標と、もう1個は探求。特に投げることに関しての追求。体の使い方とか、この2年くらいすごく研究できてるから、そういうのを極めて辞めようっていうのがありますね。どっちかがないって分かったら、もう辞めるはずなんで」

 自分のピッチングには、まだまだ先がある? そう聞けば笑って即答した。

「まだですね。全然」

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