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家畜のエサ用にもらった廃棄パンを食べて太る――カルト村の食生活。

過酷な労働、衝撃的なルール…村での青春を描いた『さよなら、カルト村。』秘話〈1〉

2017/01/25
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「所有のない社会」を目指すカルト村で生まれ、両親と離され、過酷な労働、空腹、体罰が当たり前の生活を送っていた少女時代の思い出を描いた実録コミックエッセイ『カルト村で生まれました。』でデビューした高田かやさん。

 この作品は、発売後すぐに新聞や雑誌など多くのメディアで紹介されて話題となり、「続きが読みたい」の声が殺到。そしてついにその続編となる、村で過ごした13歳から19歳までの青春期を描いた『さよなら、カルト村。思春期から村を出るまで』が完成しました。

 2作目を描きあげたばかりの高田さんに、作品を読んだ村人の反応や制作中の心境、衝撃的な村のルールの真相など、深いお話を伺いました。

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◆ ◆ ◆

さよなら、カルト村。 思春期から村を出るまで

高田 かや(著)

文藝春秋
2017年1月30日 発売

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この本に書かれたことは…うちのこと!?

――1冊目の単行本『カルト村で生まれました。』が出た頃のインタビューで、「村の漫画を描いたことを両親にも妹にも内緒にしている」と聞いて驚いたのですが、今回の続編の冒頭で、ご両親に『カルト村~』の作者が高田さんだとバレてしまうエピソードが描かれていましたね。

 本が出てすぐに書評を載せてくださった「朝日新聞」をたまたま両親がとっていたもので(笑)。母が新聞を見て村の子の描いたものだと気付き、詳細を知りたくてパソコンが使える友だちに電話して、文藝春秋の著者インタビューのページを読み上げてもらっている最中、“……これってうちのことじゃない!? ……かやだわ!!”と気付いてしまったそうです。

――ご両親のところに、ほかの村人から連絡がきたりはしませんでした? 村人に「体罰のこと描きやがって!」と怒られたり、怖い目にあったり……なんてことはなかったですか?

 両親のところに、元・村人から「この漫画の作者、お宅の娘じゃないか?」という問い合わせが何件かあったようです。私が小学生の頃住んでいた村の大人はすぐ私だとわかったらしく、今は海外で暮らしている元・村人からも「かやが本出したんだって!?」と電話があったそうで。本当、一体どこから伝わるんでしょうね。村のネットワークは怖いなぁって……(笑)。親のところに電話をかけてきた人たちは、とくに怒ったりはしていなかったと聞いています。

――高田さんと同じく村で生まれて、その後村を出て、一般の方とご結婚されたという妹さんの反応は?

「姉ちゃんすごいね!」とメールが来ました。妹が村を出たのは中学生の頃だったので、自分のいた場所のことをあまり理解できていなかったようなんです。だから「結婚相手にも自分が生まれた場所がどういう所なのか、どう説明したらいいのかわからなかったけれど、姉ちゃんの本で分かりやすく説明できてよかった」と感謝されました。

――本作を描くにあたり、漫画にも登場するご主人のふさおさんが、ベタ塗りを手伝ってくれたとか?

 はい、もう本当に助かりました。ベタ塗りは1冊目を描いているときに、本当に時間がなくてお願いしたら楽々仕上げてくれて、「よく漫画に描いてある『ベタ塗り手伝って~』ってこれのことなんだな」と、少し嬉しそうにひとり合点していました。今回も大まかなベタ部分は全てふさおさんに塗ってもらいました。ただ寄る年波からくる老眼で、細かい作業は辛くなってきたようなので、ベタ塗り作業を手伝ってもらえるのは今回までかなと思っています。一緒に並んで作業するのは楽しかったですね。集中して絵や文字を仕上げてしまいたいときも、ふさおさんが洗濯、料理、洗い物など家事を全部引き受けてくれたので、安心して作業できました。家事を全て任せられる相手がいるだけで有難いことだと思っています。

本作で明らかになる、ふさおさんとの出会いのエピソードも必見!

村の「本部」はほかの村より裕福!?

――前作の初等部(小学生)時代は、通学路の植物を食べたり、交通事故のお供えものにまで手を出したり……という空腹のつらいエピソードが多く描かれていましたが、今回の中等部・高等部時代は、逆にパツパツに太ってしまうくらいよく食べていたことが描かれています。それは、中・高時代の高田さんのいた村が、「本部」と呼ばれる村の中心部だったため、ほかの村より裕福な暮らしが送れた……ということなのでしょうか?

 ふさおさんにも「本部だけ明らかに裕福で差がある」と指摘されました。ただ、村では基本的に「全国どこの村に行っても同じ質の暮らしが出来る」ことを打ち出していて、本部にある設備は全てほかの村にもあったんです。どこの村でも大人の生活空間のお風呂は大理石だったと思うし、ソフトクリームの機械もどの村にもあったと記憶しています。消費期限切れの菓子パン(注:村では、企業から消費期限切れの菓子パンを家畜のエサとしてもらい、それを人間も食べていた)が本部だけにあったのではなく、私が中学生になる頃から村で菓子パンの受け入れを始めたので、中学生以降は菓子パンをたくさん食べられたというだけです。ちょうど私が小学生から中学生になるくらいの時期に入村者が増え、生産物も増え、自然食品ブームから一般のデパートにも村の野菜が並びはじめました。村の歴史の中で、村の規模が一番大きくなったのがその頃だったんですね。それが、たまたま私が本部へ移動したタイミングと重なったので、本部だけが裕福に感じられてしまう原因になったのかな、と。なので、中等部に上がって配置された村が本部ではなくてほかの村だったとしても、きっと同じようにパツパツに太ったと思います(笑)。

男子が使った毛つきタワシを洗うのは女子の役目

――中等部に入ると、女子と男子が別々に暮らすようになり、男子の部屋の掃除や洗濯も、女子がやらされていたそうですね。男子がお風呂で使ったヘチマタワシについた陰毛を取ることまで、女子がやらされていたというエピソードが衝撃的でしたが、村って男尊女卑な感じだったのでしょうか。

 いや、ヘチマタワシに絡んでいたのは陰毛とは限らないですよ! すね毛だったかも……(笑)。男尊女卑というより、「男らしさ・女らしさ」を尊重していた感じですかね。村では「人は各々に役割がある」とされていて、そのひとつとして「男らしさ・女らしさ」の分担があり、男だったら力仕事、女だったら細かい作業や心配りをする……ということだったのだと思います。食事の用意や盛りつけなども全て女子の役目で、それが当然でした。

村で育てたヘチマで化粧水を作ったり、タワシを作ったり。

――「男子だけ、ずるい!」とは思わなかった?

 子供たちが自ら決めた男女別の役割分担ではなく、大人に指示された役割分担なので、とくに何も思わなかったですね。「なんで女子だけ食後の後片付けしなくちゃいけないんだろう?」と思うことはありましたが、「でも男の子は畑で力作業が多いから大変だしな~」と思って納得していました。とはいえ、高等部になってからは、男子も自分たちで食事の盛りつけをしたり宿舎の掃除をしたりしていましたし、「子供らしく・男らしく・女らしく」など、村で言う“らしさ”の線引きが一体どこにあるのかは、正直よく分からないです。

村の行事「屋外食」。手前に女子、奥に男子が座っている。

――外に出てブルーシートでお弁当を広げて座るときも、見事に男女がぱっきり分かれていましたね。村の男子と女子は、お互いに過剰に意識しあっている感じだったのでしょうか?

 人にもよると思いますが、お互いに年頃なのでどうしても意識してしまいましたね。あれだけはっきり男女が分かれて生活していると、お互いよそよそしくなるのが当たり前で、男女で仲良くしている子のほうが浮いていました。中には、全く気にしないで普通に男子と話せる女子もいましたが、私は「男嫌い」というキャラで女子の中に自分の居場所を作っていたので、男の子に興味はあっても、仲良く話をしたりはできませんでした。

 

 

高田かや

 

東京在住、射手座、B型。生まれてから19歳まで、カルト村で共同生活を送る。
村を出てから一般社会で知り合った男性と結婚。
村での実体験を回想して描いた作品を「クレアコミックエッセイルーム」に投稿したことがきっかけでデビュー。カルト村での初等部時代を描いた初の単行本『カルト村で生まれました。』が大きな話題に。本書が2冊目の単行本となる。

家畜のエサ用にもらった廃棄パンを食べて太る――カルト村の食生活。

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