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筒香嘉智の2010年最終戦のホームランは“何かが変わる予感”そのものだった

文春野球コラム ウィンターリーグ2019

2020/02/04
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 2020年もキャンプインを迎え、新たなシーズンが近づいてきた。今年のベイスターズを語る上で、筒香がいなくなった穴というのは否が応でもクローズアップされるシーズンとなる。

 筒香はホエールズ、ベイスターズと横浜球団史上でも屈指のバッターだったと思うが、バッターとしては同等の存在感を放っていた選手は筒香以外にも何人かいたと思う。ただ、チームを引っ張るキャプテンシーは横浜球団史上でも筒香が一番だったのではないだろうか。言い換えれば、筒香は他の誰よりも自分のための時間や労力を削ってチームに尽くしていたと言える。そんな筒香が、ある意味ベイスターズというチームから解き放たれて、メジャーリーグという舞台に飛び出すことで、集中して自分の夢だけを追えるようになった。

 筒香が10月下旬にメジャーリーグ挑戦を表明した記者会見では、非常に良い顔をしていた。どことなく緊張しながらも、自分の夢に一歩一歩近付いているという高揚感。

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「小さいころからの夢でもあり、プロに入ってからも憧れ続けた」

 記者会見という大勢の前で、堂々と自分の夢を語れる筒香の向上心がちょっと羨ましかった。

レイズ入団会見 ©AFLO

ちょっとやそっとの暗闇ではなかった2010年

 ポスティング申請時に公開された『DREAM | GO, TSUTSU, GO. 』というタイトルの球団公式動画では、次のメッセージが添えられた。

暗闇に差し込んだ、一筋の光だった。
ずっと待ち望んでいた、大切な「光」だった。
2010年、最終戦。
あの時、
何かが変わる予感がした。
一筋だった光は、
やがて大きく、強く広がり
その輝きが、
再び「夢」を照らし出してくれた。

 2010年10月7日、最終戦。この動画では『暗闇』と2文字で表現されたが、当時を思い返すとちょっとやそっとの暗闇ではなかった。3年連続90敗超えとなる95敗。借金47勝率.336。弱いだけならまだいい。この最終戦の1週間前に、球団の身売りが取り沙汰され、本拠地の移転も囁かれていた。当時の心境を思い返すと筒香のホームラン1本で何かが変わる予感はしなかったし、むしろ何も変わらないのを望んでいたと思う。

 ちょうどその9年後となった2019年10月7日。クライマックスシリーズを本拠地で迎えたベイスターズは、9回裏1点ビハインドの場面で筒香に打席が回ってきた。残念ながら藤川の渾身のストレートに筒香のバットは空を切り、そのまま2019年に見た夢は夢のまま終わったのである。

 でも、9年前には想像もしていなかった。満員の観客に横浜スタジアムで迎えるクライマックスシリーズ。あの時ホームランを打った若者は、チームを勝利に導くべく打席に立っている。確かにあのホームランは、今振り返れば何かが変わる予感そのものだったのだろう。ベイスターズが横浜から去るかもしれないと思った2010年の僕に、9年後の今日にハマスタでクライマックスシリーズが行われて、筒香が勝負を決する場面で打席に立つと聞かせたら、「そんな夢のようなことが本当に……」と思うに違いない。

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