WeWorkが新たな資金調達を見据え、アメリカ・ナスダック上場のために証券登録届出書いわゆる「フォームS‐1」を証券取引委員会に提出したのですが、その資料にあった数字を見て、世界中が驚愕することになりました。
赤字額が予想をはるかに超えており、かつ不透明な会計処理が数多く見つかったからです。
2018年の赤字額は約2000億円。2019年に関しても、上半期だけで約980億円の純損失が計上されていることが明らかになったのです。
WeWorkは事業を拡大するなかで、極めて大きな赤字を垂れ流していたのです。イギリスの経済誌「フィナンシャル・タイムズ」は「彼らは時間あたり、約3000万円を失い続けている」と断罪しました。
ソフトバンクが投じた「2兆円」
この事実の発覚により、当時、約5兆円といわれていたWeWorkの時価総額は、約1兆円に暴落。予定していた新規株式公開(IPO)もあっさり延期になってしまいました。
赤字の額があまりに巨大すぎるからです。
この段階で、ソフトバンクグループとソフトバンク・ビジョン・ファンドはすでに93億ドル(約1兆円)をWeWorkに出資しており、この状況には頭を抱えたはずですが、追加の出資と融資を含め最大95億ドル(約1兆円)を投じることを決定しました。
日本円で2兆円――。WeWorkは、孫氏の後ろ盾によってなんとか生き延びている状態です。
未上場で時価総額1兆円を下回り、しかも巨額の赤字を垂れ流すWeWorkに、孫氏はなぜ、最大1兆円もの追加資金の投入をするのでしょうか。
投資の世界では「過去に投資した金額のうち、事業を撤退しても回収できない金額」、言い換えると「回収不能と考えられる金額」のことを「サンクコスト(埋没費用)」と呼び、それに呪縛されることはごとされています。
しかし、孫氏の立場では、WeWorkは大きすぎて潰せないのでしょう。
もしWeWorkを潰したら、ソフトバンクグループ本体の財務が大きく毀損するのみならず、ビジョン・ファンドに出資する世界の投資家たちの信頼を失い、さらにソフトバンクの投資を支えてきた日本の銀行も大混乱に陥り、投資活動の後ろ盾を失ってしまう。現在のみならず、未来のビジョンも総崩れになる。そうした判断からだと推測されます。
実際、WeWork問題に端を発して、ソフトバンクグループの株式を世界的なヘッジファンドが大量に取得、それに呼応するかのように巨額の資産売却と自社株買いを発表、ムーディーズによる格付けの2段階ダウンなど、同社を取り巻く経済環境は大きく揺れ動いています。
このまま「ユニコーン」に出資を続けて大丈夫なのだろうか?
この一連の出来事を、単純にWeWorkだけの問題だと捉えると、少し本質を取り違えてしまうと私は考えています。