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ホークス和田毅に憧れた男が、本人と出会い、登場曲「21」を書くまでの物語

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/06/27
note

「オリジナルの登場曲を書いてもらいたいな」

 それから毎年一度はグランドでお会いし、新しくできたCDをお渡しし活動をご報告させていただくようになった。

「どんどん活躍していてすごいね!」

 和田投手からいただけるその一言がまた来年への励みになった。

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 海を渡り、メジャーリーガーとなった間も交流は続き、2015年のホークス復帰に伴い再会。その頃になると、ふるさとや人を応援する歌を書くシンガー・ソングライターであると自認するようになっていた私は、和田投手を応援する歌を書きたいと思うようになっていた。和田投手のイメージに合いそうなオリジナル曲を聴いていただくこともあったが、まだ何かに採用していただくことはなかった。

 そんななかで迎えた私のプロデビュー10周年の2017年。和田投手との会食の席でついに歓喜のオファーが伝えられた。

「冨永くんのプロデビュー10周年を記念して、オリジナルの登場曲を書いてもらいたいな。冨永くんらしいバラードではなくてロックソングで殻を破ってもらいたい。戦いに向かうような気持ちでマウンドに向かっている自分に、皆を勝利へ引っ張る強い歌を書いてほしい」

 もうひとつ殻を破れずに悩んでいた私への期待を込めたオファーに胸が熱くなった。最高の歌で応えようと制作に没頭した。そして2017年シーズンから3年間使っていただくことになる登場曲「War」が完成した。

2017年 「War」をお渡しした会食の席にて ©冨永裕輔

 そして迎えた2019年夏。和田投手から新登場曲のご依頼をいただいた。

「来年プロ入り時の目標のひとつだった18年目のシーズンに挑む自分から、今まで出会ったすべての人への感謝を伝える歌を作ってほしい。だけどもちろんこれが終わりじゃない。これからも一緒に歩めるような歌を」

 その後イメージを膨らませていたなかで、幸運なことに和田投手が先発し日本一を決めた巨人との日本シリーズを観戦する機会をいただいた。その空間を共有して感じた球場の雰囲気が歌のヒントになった。

 和田投手からの感謝とファンからのエールを繋ぐ架け橋となる歌作りに取り組んだ。その間、学生時代、新人時代、そして今に至るまでの和田投手の野球人生の1シーン1シーンが思い出された。輝かしい実績と、故障やリハビリを乗り越えてきたその光と影を。

 そして完成した楽曲「21」を和田投手との会食の席で聴いていただいた。

和田投手への「21」MV出演を依頼

 一度聴いただけですぐにサビを完璧に歌ってくれた和田投手は、興奮気味に一発OKを出してくださった。私は安堵の気持ちとともに、一つのオファーをした。

 それは和田投手のMV出演依頼だ。この楽曲で和田投手のこれまでの歩みをファンの皆さんと共有し、そして今の和田投手からの感謝を表現するために、MVが必要だと感じていた。快諾いただき、その場はお開きとなった。

 それから画コンテから描かせていただき和田投手に見ていただいては修正を繰り返した。そんななかでも和田投手の優しさを感じる場面があった。当初、私はMVのスタートから和田投手がメインの画コンテを描いていたのだが、

「冨永くんの楽曲だから冨永くんからスタートするMVがいいよ」

 とご提案をいただき構成を変更。和田投手の背中かと思いきやユニフォームを着た私の背中からスタートするMVは和田投手の発案だ。幼少からの夢であったホークスのユニフォームに、歌手として身を包むという私としてはこれ以上ない幸せをいただいた。

 そして多くの方々のご協力をいただき「21」MVが完成した。

2020年 「21」MV撮影時 ©冨永裕輔

 この楽曲が生まれたときには世の中はまだコロナ禍ではなかった。しかし結果的には無人のスタンドが舞台のMVは、球場に行けなくても繋がっているファンの応援と、離れていてもすべての人への感謝を胸に投げ続ける和田投手が描かれ、2020年シーズンを表しているかのような内容となった。

 和田投手から「自分の背番号が歌になるなんて。宝物をいただいた」という嬉しい言葉が贈られた。やっと私から和田投手に宝物を渡すことができた。

 いま私は自分のことを、“人の想いを歌にして繋ぐことが仕事”のシンガー・ソングライターだと思っている。

 その役割に気づけたときに、今まで以上に自分らしく、しなやかに、やさしく、つよく歌い続けていけると感じている。

 私も更なる高みを目指し歌い続け、この先も和田投手の野球人生を応援し続けたい。

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