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消えたカトリック教会の献金3億円。投資先は「アラブの石油プロジェクト」だった!

教会を私物化する聖職者たち #2

2020/06/26

source : 文藝春秋

genre : ニュース, 社会

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 百歩譲ってK氏の会社の「医療測定機器」のセンサー技術がパイプライン関連のプロジェクトに活用できたとしても、その投資規模は数百億円から1000億円という単位にはなるはず。これに対してそもそもアール社の登記上の資本金は6250万円。何か目覚ましい成果が注目されているわけでもないK氏に、首長国政府が声をかけるなんてことがあるのか。K氏は一体、どんな動機でカトリック教会に近づいたのだろうか――。

「借用書を交わして、5千万お貸ししました」

 ちなみにこの年の2月、宗教法人「高野山真言宗」(総本山・金剛峯寺)が信者に黙って行った資産運用で約6億9000万円の損失を出していたことが判明。宗団を二分する人事抗争に発展したことが報じられていた。宗教法人の資産に注目が集まった時期である。

 宗教法人狙いの“うまい話”にウソが混じっていないかと疑問を持つのが普通の感覚だが、A神父はそうではなかった。

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高見大司教(左)は、昨年の教皇フランシスコ(右)の長崎訪問時には案内役も務めた ©AFLO

〈投資の件で、(筆者注・K氏は)大司教様と会われました。(略)大司教は丁重にお断りしましたようです(ママ)。私も「大司教がお断りしたことを私ができるはずはない」とお断りしたのですが、では5千万貸してほしいという話になり、借用書を交わして、5千万お貸ししました〉

 投資がダメなら貸してくれ、と言われて即座に貸し出している。K氏のセールストークは具体的には書かれていない。心が動いた理由について、A神父は書いていない。書けば不都合な話だったのだろうか。

口座からいったん引き出し、個人名義で送金

 ここからA神父は急坂を転げ落ちていくように、K氏にのめり込んでいく。

〈現地を見て欲しいということでしたので、フジャイラに行き、K氏にターミナル事業の手伝いを依頼したフジャイラ首長の甥になる王子とお会いし、また、石油タンクを置く予定地もフジャイラ政府関係者から案内してもらいました〉

〈当時、1億ぐらいは投資に回せる資金がありましたので、将来の教区のためにと思い、9月に1億を直接フジャイラ政府に送金しました。10月に、現地の会社を設立する書類にサインし、その後、フジャイラで会社が設立されました〉

1億円の振込受付書(2013年9月9日受付)。「ご依頼人」の欄にはA神父の名前が書かれている

「首長の甥」や「政府関係者」が本物かどうかはさておき、会社設立書類にサインした、ということから推察すれば、会社設立の創業役員の一人だった可能性もある。1億円を投資する送金についてA神父は、長崎の地元銀行に振込受付書を書いている(上記写真参照)。

「A神父は大司教名義の口座から直接の振り込みではなく、いったん口座から引き出した上で、その金を個人の名で送金していたようです。配当を個人で受け取るつもりだったのかも知れませんが、後に訊かれると〈イスラムを国教とする政府にキリスト教の教団から振り込むわけに行かないという制約があった〉と説明したそうです」(大司教区関係者)