まだ背番号120だった3月15日、オープン戦の最終戦だった広島戦で先発を任されて4回1安打無失点。トータルで5試合に登板して11イニングを無失点に抑えた尾形崇斗投手は、そのデーゲームが終わって福岡に戻る新幹線の車内で、念願だった支配下登録の連絡を受けました。

 もう、この時には当初の3月20日からの開幕の延期が決まっていましたが、「僕は今日から開幕のつもりでやります。1球目から最高のパフォーマンスをしたい」とエンジン全開。チームの活動が自粛となった期間も気持ちを切らすことなく“開幕1軍”を目指して取り組んできました。そして、自粛明けの練習試合でも存在感を見せましたが、開幕メンバーの中に“尾形崇斗”の名前はありませんでした。

「めっちゃ悔しかったです……」

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 そこがゴールではないとわかってはいるけれど、一つの通過点として目標としてきた“開幕1軍”。悔しくて悔しくて……その日は心底落ち込んだようです。でも、尾形投手はすぐにいつも通りのギラツキを取り戻していました。

「僕、あの日は世界で一番落ち込んでたと思うんですけど、次の日にはしっかり切り替えました。時間がもったいないので」

 落ち込むだけ落ち込んだら前を向く。尾形投手は投げっぷりの良さ同様、気持ちの面でもスイッチの切り替えは思い切りが良いのです。それができるのも、成功体験ならぬ“成長体験”があるからです。

 ケガでリハビリ組になった時、打たれて落ち込んだ時――「だけど、その度にちゃんと成長して帰ってこられたんです。悔しさが僕をもっと強くしてくれました」。

 だから今回も、より一層成長するチャンスだと受け止め、前を向くことができたと言います。やってきたことに胸を張れる尾形投手だからこその発言だと感じました。

昨秋からアピールし続けてきた尾形投手 ©上杉あずさ

自分の目指すべき“究極”像

 尾形投手の取り組みについては、チームメイトやコーチ陣が皆、口を揃えて「ストイックだ」と言います。倉野信次ファーム投手統括コーチは、「自粛中の自主練習も光っていた。頑張っている姿を見てきたから、壁に当たっても乗り越えてくれる期待感がある」と取り組みを評価していました。ただ、「もう一つ足りない部分を2軍でやっていかないと」と課題も与えていました。

 尾形投手自身も悔しさだけでなく、冷静な目を持って現状を受け止めていました。開幕を2軍で迎え、今季の公式戦初登板となった6月21日のウエスタン・バファローズ戦では7回から登板し、2回を1安打無失点。3奪三振、1四球。だけど――。

「1軍で戦うには話にならない」

 決して悪くない結果でも、本人の自己評価は厳しいものでした。

「今までの自分なら、今日はナイスピッチングだったと満足していたかもしれません。だけど、細かいコースまでつけないと1軍では通用しない。突き詰めないと……」

“究極”を目指してきた尾形投手が1軍を知ったことで、自分の目指すべき“究極”像が具体的に見えてきたのかもしれません。この数か月で著しい成長を遂げてきました。