そして2020年――。
「パフォーマンスはホームランを打った選手が行う」という不文律を見事にぶち壊したカメラ芸。(ご存知ない方のために説明しますと、ホームランを打った選手がベンチで祝福される姿を撮っているベンチ横のテレビカメラに、真顔かつカメラ目線の上田選手が映り込むという“パフォーマンス”。これはリーグの垣根を超えて日本ハムやオリックス、ソフトバンクにも波及。その元祖は「上田新喜劇」として崇められているというもの)
あるときには、観客数制限のおかげで聞こえたベンチからの「ビッグフライ! ムラカミサン!!」という村上宗隆選手のホームランを称える上田選手の声。
絶対にこの人は超一流のバイプレーヤーになる
そんなムードメーカーがプレーで見せてくれたのが9月16日の横浜戦、連敗を6で止めるスーパーキャッチでした。1点リードで迎えた9回裏、2アウトからの大きなレフトファウルフライ。上田選手はフェンスに激突しながらもボールを掴みゲームセット。
しかし、その場に倒れ込み、起き上がることさえできない。高津監督・宮出隆自コーチ、マウンドにいた守護神・石山泰稚投手などが駆け寄るなか、トレーナーに担がれ担架に乗せられた上田選手。
そのまま運ばれるかと思いきや、担架の上で何かを話した後、宮出コーチの右指が「来い来い」というジェスチャーをしたかと思うと、その宮出コーチにおぶさってベンチへ向かう。
苦悶の表情かと思いきや、顔を上げ笑顔の上田選手。その背中をグラブでポンポンと叩く石山投手、頭をポンポンと叩く高津監督。キャプテン青木選手主導でベンチ前で出迎えた全員とハイタッチして勝利の喜びを分かち合ったあと、おぶさったままクラブハウスへと消えました。スタンドは緊張から笑いに変わり、そして両チームファンからの大きな拍手に包まれました。
スパイクを脱がされた右足は絶対痛かったと思います。でも、「おれは大丈夫だから安心して!」というメッセージを担架を使わないことでチームメイトとファンに伝えた上田選手。翌日、残念ながら登録抹消となってしまいましたが、翌日からチームはその気合いに応えるように連勝しました。
笑いながら涙が出たのはあの神戸の寄席の日以来でした。絶対にこの人は超一流のバイプレーヤーになる。
2020年9月16日、上田剛史は僕にとって、より思い入れの強い選手になりました。
最後に、レフトからベンチ、そしてライト奥のクラブハウスへと長い距離をおんぶしてくれた宮出コーチの男気と大きな背中にも感謝。
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