意義のある自主トレにするために
実はこの台頭の裏にもう一人、欠かせぬ存在がいたことを紹介したい。水口大地選手の存在である。
「自主トレに、そんなに重きを置いていなかった」という昨秋の川越選手は、ファームでも大変お世話になっていて、さらに同じ「ウエイトトレーニングが好き」だという理由から、水口選手に「一緒に自主トレをしたい」と願い出ている。もちろん、水口選手も快諾したい気持ちでいっぱいだったという。
しかし、同じ選手として、また、心から可愛がっている後輩の将来を考えた末、別の答えを出した。
「僕が年下だったら、今だったら、絶対に(同じ内野手の)ゲン(源田壮亮選手:2年連続ゴールデングラブ賞受賞)について行きたいと思う。そう考えた時、誠司は、僕についてくるよりも、アグー(山川選手)や友哉につかせた方がいいよなと思って」(水口選手)
そこで、山川選手、森選手に「可愛い子やから、誘ってあげて欲しい」と口添えしたことで、川越選手の『山川・森組』への参加が実現した。
そこには、「自主トレは、選手にとって一番大事な時期だと思う」という、水口選手のプロ意識の高さがあった。
「(自主トレは)同じ意識、同じ考えを持っていないと、一緒にやるのは厳しいと思います。その意味では、僕も誠司とやった方が、絶対に自分のためにはなります。
でも、初めて誠司のバッティング練習を見た時、僕も一軍の試合前にいろいろな選手のバッティング練習を見ていますが、『柳田(悠岐)さんを超えてる!』と思ってしまったんです。率も残して、本塁打も打てて、という打者だと考えたら、『僕が教えられることはないな』と、僕自身で思いました」
改めて、ライオンズは良いチームだなぁ
そんな先輩の愛情を、川越選手が感じないはずがない。
「水さん(水口選手)のそういう人間性は、日頃から十分知っています。本当にありがたいです」
今年は、新型コロナウイルスの影響で、選手本人に直接取材がほぼできないため、今季の川越選手の躍進を水口選手がどのような心境で見つめているかは、残念ながらわからない。だが、きっと、可愛い後輩の人生が大きく変わったことを心から喜んでいるのではないだろうか。
こうしたバックグラウンドを知れば知るほど、改めて、各選手の活躍には、それぞれいろいろな人の思いや心遣いが重なり合っているのだなぁと、温かい気持ちになる。
悲しいことに、人と接するときにはマスク着用、ソーシャルディスタンスという名の一定距離を保つことが常識の世の中になってしまった。どんどん人と人との距離が離れていき、虚無感を感じることが多いが、この水口選手に限らず、現状許されている限りの取材をしている中で、日々、ライオンズの中で選手同士が想い合ったり、励まし合っている姿を見ると、人としてとても救われる。
今、このコラムを書きながら、改めて「ライオンズは良いチームだなぁ」と確信している。残り30試合を切った。勝敗の行方はもちろんだが、今一度、選手一人一人に、成功を願って心馳せる人の存在があることを感じながら、その一挙手一投足を見守りたいと思う。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム ペナントレース2020」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/40577 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。