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野村弘樹さん、ベイスターズが優勝するために必要なことって、なんですか?

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/10/18
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――先発投手の調子が良ければ良いほど、6回、7回になるとドキドキしてしまう。「打たれるかも」のドキドキというより「交代させられるんじゃ……」のドキドキです。

野村  先発ピッチャーが8回くらいに疲れてきて、それをファンが一生懸命応援するような、そういう試合は本当に少なくなったと思います。でもベイスターズにそういう投手がいないわけじゃない。投げさせていないだけで。いいピッチャーの名前は7、8人パパパッと出てくる、そんなチームは他にないですよ。いいピッチャーはいるんだけど、タフなピッチャーがいない。だから毎年ローテーションが揃わない。

――タフなピッチャー。

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野村  ピッチャーって一試合に300球くらいは考えないといけません。試合前の準備、イニング間のキャッチボール、完投すれば100~130くらいはいくでしょう。だからキャンプ中にはそれくらい投げ込む日を入れる。(三浦)大輔なんかもっとですよ。そういうピッチャーがいない。

――何がピッチャーを「タフ」にさせるのでしょうか。

野村  肉体的にも精神的にも、なんだと思います。考え方もある。昔はピッチングコーチが練習メニューを組んでいたけど、今はそうじゃないですよね。無駄を省いて、効率性を求める練習をさせますが、もしかしたらそれは「自分が投げて、チームを勝たせる」という、タフな思考にはフィットしてないんじゃないのかな。だってピッチャーって無駄なことだらけなんですよ。

――無駄なことというのは?

野村  ランニング一つとってもそうです。ポールとポールの間を何十本と走らされたり。こんなことやって上手くなるのかなって思うし、それは直接技術の向上には繋がってないけど、強くなるんですよ。精神的にも肉体的にも。時代といえば時代ですが、やっぱり僕は規定投球回に達してない先発ピッチャーは、評価できないと思うんです。ましてや「エース」なんて呼べない。

巨人とベイスターズを離してしまったもの

――先ほど挙げられていた「山﨑投手の起用方法」についてはどうお考えですか?

野村  確かにここ数年はセーブを挙げても3者凡退に抑えることは少なかった。だけど、今年のような敗戦処理的な使い方をしても、良くならないと思います。エース、四番、抑え……選手に任された“役割”は、軽視してはいけないと僕は思う。山﨑にはもっと早くミニキャンプでも何でもさせて、いい状態のボールまで戻して、それでまた一軍で投げさせて欲しかった。そこで初めて抑えを三嶋にするのか山﨑にするのか、になる。

――大魔神佐々木投手に、そういう時期はありましたか?

野村  見たことない(笑)。あの人はどんなに調子悪くても抑えてたから。大魔神です、人間じゃない。でも佐々木さんだって実は繊細なんですよ、優しいですし。

――今年は巨人が独走態勢に入り、早々にマジックも点灯しました。巨人とベイスターズを離してしまったものはどんなところにあると思いますか?

野村  采配って表裏一体だと思うんです。今年の原監督は「表」しか出なかった。完全に実力至上主義で、ベテランも若手も関係ない。外国人だろうと平気で外すしなんなら落とす。勝つためならゲレーロにバントさせるのが原監督です。でもそれが強さなんだなと思いました。勝てば官軍ですからね、プロは。

 一方のベイスターズは中途半端なように見えました。先発ピッチャーも140球投げさせたかと思えば、すぐに代えたり。その根拠がわからない。そこでお客さんにまで「なぜなんだ?」という気持ちが芽生える。先ほど「セオリーがない」というお話をしましたが、勝つ確率が高いものがセオリーとして定着するわけで、セオリーじゃないものは奇襲になる。そして奇襲は外れたらとんでもないことになる、そこが表裏一体なんです。今年のラミレス監督は「裏」が目立ってしまった。

 勝負事だから、勝ったり負けたりします。ずっと勝ち続けられるわけはない。ただ今年のベイスターズに限って言えば、負け方が悪すぎる。そこに尽きます。「いや~今日はしょうがねえな」ってお客さんが帰れる試合が何試合あったか。2−0、3−0で勝っていて、8回もマウンドに上がったけどピンチを背負った先発に、ベンチはなにを言うか。「同点までいい、抑えてこい」と言えるのか。そういう野球は正直あまりできなかったように思います。そして今年こうして5割を切ってる現実がある。

――いい選手は揃っているのに、活かしきれてないように感じてしまう。それが負けをさらに「苦く」しているのかもしれません。

野村  負けには必ず理由がある。なぜ勝ち切れなかったのか、1試合1試合立ち止まって考えないといけない。ピッチャー交代も野手の起用も、一貫してるように見えなかったというのが、今年の最大のモヤモヤで、だって選手は力をつけているはずで、そこをしっかり見極めていたら、変わっていたのかもしれない。何よりタフな先発を育てることです。

――野村さん……優勝したいです。

野村  うん……真似をしろなんて決して思いませんが、98年、僕痛み止めを飲みながら投げてたんです。それでも投げたかった。優勝、日本一にはそれくらいの価値があると僕は思いましたし、その後僕はダメになってしまったけど、今もそれに後悔はないんです。時代が変わっても、優勝がもたらすものは変わらないと思います。

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