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実況中も鉄道を話題に

 今年、球団と鉄道の繋がりをさらに印象づける変化があった。メットライフドームのライト側後方「トレイン広場」に設置された「L-train101」だ。

 この車両は1980年に製造され、およそ40年走り続けてきたもの。つい最近まで多摩湖線や西武園線などで走っていた車両が、球場の中に設けられた線路の上に降臨した。メットライフドームがリニューアルされ、そのシンボルとして車両が飾られている。

 一般的にこういう展示車両は、すでに引退した車両を展示する場合が多い。ライオンズでは2021年の新入団選手もオリジナルな塗装を手伝い“新たな鉄道人生”をスタートしたのだが、じつはこの車両と同じ「101系」車両が最寄りの路線である狭山線(西所沢駅~西武球場前駅)を走っている。球場に展示されている車両と同じ電車に、球場の行き帰りに乗ることができるのだ。

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 この「L-train101」は夜になるとライトアップされる。その姿をバックネット裏の実況席から見る時、私は密かにパワーをもらうのである。

 なぜかわからないが、アナウンサーの中には鉄っちゃんが多い。当然、ライオンズ戦の試合前に仲間に会えば盛り上がらないわけがない。最近は密を避けるため、ベンチの前で取材陣が集まるという光景にはならないが、真面目な顔で練習を見ながら「この前、9000系の改造車に乗りましたよ」「マジで?」なんて会話をしたいとつくづく思う(もちろん、いつもはちゃんと野球の話もしています)。

 最近の私は、ついに中継の本番中にも鉄道の話をするようになった。NACK5「サンデーライオンズ」である。

 番組は、お笑いコンビ・三拍子の久保孝真さん、レポーターの佐藤栞菜さん(かんちゃん)、そして実況(加藤暁アナウンサー、または私)でお送りしているが、現在は感染対策で久保さんとかんちゃんは大宮のスタジオ、実況アナのみが球場の実況席というスタイルで放送している。

 もちろん試合の様子を伝えることがメインだが、他局のラジオ中継と比べて自由度が高いので、私も何かにつけて鉄道の話をしている。ライオンズの川越誠司外野手が活躍すれば、「これが川越の本当のチカラ、まさしく【本川越】だ~」と西武新宿線の駅の名前を出してみる(こうやって字にしてみると、何を言っているんだか自分でもよく分からない)。

 メットライフドームでの開催時は西武鉄道の話が中心になるが、先日の阪神との交流戦の際は、現在2つしかない鉄道会社の球団とあって阪神電車の魅力も語った。遠征に出る時は仙台や大阪など、現地に向かうまでに乗った列車の話などを交え、俊足を飛ばして三塁打を打ったバッターを評して「はやぶさスパンジェンバーグ!」と叫んだ(もっと意味が分からないだろうが、新幹線「はやぶさ」のように速く三塁まで駆け抜けたという意味で言ったはず)。

所沢と横浜につながる“夢”

 ここまで書いておいて何だが、いつも必ず鉄道の話をしようと思っているわけでもない。ただし、最近では言わざるを得ない状況になりつつある。

 というのも私が鉄道の話をすると、ライオンズの攻撃で点が入ることが多いのだ。そうなると、事前に実況の資料を作ると同時に、いくつか鉄道ネタも用意するようになる。そして試合本番、実況しながら“チャンス”を待つ。

 あの古舘伊知郎さんがプロレス実況をしていた頃、数々の名言の裏には「テーマ」を決めていたそうだ。ある時は放送席に夕張メロンを置き、何とかして実況に組み込もうとしたと聞いたことがある。私の鉄道ネタも同じような心境……と言ったら怒られるだろうなぁ。

 鉄道好きのライオンズ実況アナとして、ぜひ実現してほしい企画がある。西武とDeNAが日本シリーズで対戦した際には、西武球場前と元町・中華街を結ぶ特別電車を走らせてほしいのだ。

 横浜スタジアムのすぐ近くには、みなとみらい線の日本大通り駅がある。西武球場前駅からは、東京メトロ副都心線、東急東横線を介して1本の線路で繋がっていて、実際にメットライフドームの試合の際には西武球場前発 元町・中華街行きの電車もある。これを日本シリーズの際にファン向けの特別列車として、ぜひ走らせてほしい。

 途中に地下鉄路線を走るので、タイトルを付けるなら「日本版サブウェイ・シリーズ・トレイン」。もちろん、その時は私が車内アナウンスをしてみたい。その日の実況を断ってでも(笑)。

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