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原監督らが手を振るシーンに涙が止まらず…清原和博は“セカンドチャンス”を掴み取れるか

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/07/20
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「俺たち昭和42年世代の代表的存在って、やっぱり桑田真澄・清原和博のKKコンビだよな」

「そらそうよ。2人が高1で衝撃デビューを飾った1983年夏の全国制覇以来、世代をずっとけん引し続けたのはやっぱりKKよ」

 学生時代に属した野球部の同窓会に出席すると、必ずと言っていいほど、そんな話題になり、同じ結論に落ち着く。同じ速度で年齢を重ねてきた稀代のコンビを絡めた話で盛り上がるたび、同学年のヒーローから元気をもらってきた同級生の多さを思い知る。

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 ところが清原に関しては2008年の現役引退後、「大丈夫なんだろうか……?」と心配する声が同窓会の席で挙がるようになっていた。

「ドタキャンを繰り返したことで信用を失い、マスコミの仕事がどんどんなくなってるって記事を読んだ。心配すぎる」

「信用を失うとNPBの指導者の道も厳しくなっていくよなぁ……」

 プロ野球解説の仕事も2010年日本シリーズを最後に途絶えていた。

嘘だと言ってくれよ。清原のバカヤロー!

 2016年2月2日、清原は覚せい剤取締法違反(所持)容疑で逮捕された。

 私は銭湯のサウナ内に設置されたテレビの速報ニュースでその事実を知った。サウナには自分を含め、10人ほどが入っていた。

「あぁ……」

「やっちまったな…。もう野球界は永久追放だな」

「社会復帰も困難だろ……」

 そんなやるせない声が室内に響いた。

「おれ、同学年なんだ。世代のヒーローだったのに……」

 同じ空間に同学年がいた。私は声を発する気にもなれず、サウナを出た。冬の寒空の下、家路につきながら、心の中で叫び続けた。

(なにやってんだよ……。嘘だと言ってくれよ……! 清原のバカヤロー!!)

 逮捕から約半月後、当時、レンジャーズに在籍していたダルビッシュ有は次のような言葉を発し、自身の考えを示した。

「更生後に球界などに社会復帰する道を閉ざすべきではない。日本では1度過ちを犯してしまうと、社会復帰することが難しいが、アメリカでは1度薬物に手を出しても、もう一度(やり直す)チャンスをもらっている。薬物中毒から再起した選手、監督がいる。日本もセカンドチャンスを持てる社会にならないと。もし(清原さんが)更生できて、復帰し、(プロ野球の)優勝監督にでもなったら、日本は変わると思う」

(いいこと言うなぁ。日本もアメリカのようにセカンドチャンスを与えられる社会になっていけたらなぁ)

 14~15歳の頃、父親の仕事の都合でアメリカに住んだ時期があった。

 現地の高校に編入し、驚いたことがある。それは、やり直すチャンスを提供しようとする、学校と社会の揺るぎない姿勢だった。

 薬物使用を含め、不登校や犯罪による中退者は多かった。ドロップアウトの理由はさまざまだが、再起をはかるための更生施設とカリキュラムが事案別に確立されており、学校に戻ってくるケースもあった。

 私が通った高校には託児所があり、望まない妊娠でシングルマザーの道を選択せざるをえなくなった生徒が学校生活をきちんと続けられる環境も整えられていた。「薬物の真実・恐ろしさ」を学ぶ授業も組み込まれ、テストも実施された。

 校内トイレの個室のドアは全て外され、用を足している姿は丸見えだった。校内に密室を作らないことで、初犯、再犯の芽を少しでも摘み取ることを優先していた。

 日本との違いに驚く私に対し、担任の女性教諭は次のように言った。

「人間だもの。誰だって間違いはある。やり直すチャンスを与えられる社会こそ、みんなに優しい社会なのだと思うよ。大事なのはセカンドチャンスを与えるだけじゃなく、そのチャンスをものにできるように周りがしっかりバックアップしてあげること。セカンドチャンスをものにすることは、けっして簡単なことじゃないからね」

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