「誰かに無理だと言われても一生懸命やり続けることが大切だよ。結果は後からついてくるものだから」
7月22日の事。千葉ロッテマリーンズ公式Twitter用にとファンに向けたコメントをアデイニー・エチェバリア内野手に聞いた時に返ってきたメッセージだ。
普段は練習の事やその日の体調について話してくれるのだが、この日はいつものコメントとは少し違ったニュアンスのものだった。だから、何かあったのか聞いてみたくなった。聞いてみると少し微笑んで遠い昔を思い出し、懐かしそうに話してくれた。
「日本の高校生がZOZOマリンスタジアムで野球をやっているのをたまたま見て、ふと自分の小さい時を思い出したんだ。7歳か8歳の時かな。野球の練習に行くのに、自分ではまだその時、野球のスパイクの紐を結べなかったから、父に靴ひもを結んでもらっていたんだ」
父との忘れられない大事な思い出
エチェバリアの父はキューバの刑務官。野球をプレーした経験はない。ただ、息子が楽しそうに野球をプレーしている姿が大好きで、練習に行くときは息子の成長を見るため、出来るだけ付いていきサポートしてくれた。兄弟は兄が一人。兄は野球をやっておらず、キューバでは野球と同じくらい人気のボクシングをやっていた。種目は違うがお互いに切磋琢磨し、各々の競技に没頭していた。父はそんな二人の姿を誇りに思っていた。そしてエチェバリアは父との忘れられない大事な思い出を教えてくれた。
「靴ひもを結んでもらっていて、これから練習に向かおうかという時に、親戚の人が近づいて来て、こう父に言ったんだ。『アデイニーになんで野球なんてやらせるんだ。体も小さいし才能もないんだから早くやめさせて違うことをさせなよ。お金もかかるんだから』。ボクたちの目の前で言われたんだ。その言葉を言われたときは何も言い返せず黙っていたよ。自分でも、野球は大好きだけど体は小さいし言われていることは理解できたから、言い返せなかった。
そんなことを思っていたら父が、『今はこう言われてるけど、俺はお前を信じている。お前はきっと素晴らしい野球選手になる。常に自分を信じろ』と言ってくれた。その時のことを鮮明に覚えているよ。今日までその言葉通り、自分を信じてやってきた。父のあの言葉と必死に野球をやってきたおかげで今がある。他人に何を言われても野球はずっと大好きな事に変わりなかった。ファンの皆にも、この言葉を知ってほしかった。結果は後からついてくるから、今に囚われず自分を信じて一生懸命やってほしい。それが自分の大好きなものだったら特にね」
幼心にも覚えている親戚の心無い言葉。しかし、それよりも鮮明に記憶に残り、その後の人生で支えとなったのは父の息子の将来を信じてくれている心だった。今季でプロ生活12年目となった。メジャー通算922試合に出場し打率.253、37本塁打、273打点。体が小さくても、出来るということを証明している。そしていつも靴ひもを結んでくれ、どんな時も味方でいてくれた父はアメリカで一緒に住み、幸せに暮らしている。