多くの人がオリンピックに出場している選手たちから勇気をもらっている。千葉ロッテマリーンズの種市篤暉投手もその一人だ。オリンピック・女子ソフトボール決勝戦を手に汗を握りながらテレビ観戦した。日本を金メダルへと導いた上野由岐子投手の気迫の投球が目に焼きついた。
「感動しました。テレビで見ているだけなのですが、一緒にプレーをしているような感覚になるぐらい感情移入しながら応援しました」
種市は興奮しながら話をしてくれた。
種市が大事にしているソフトボール界のレジェンドの言葉
上野と種市の出会いは2020年1月、福岡での自主トレの事。2019年からホークスの千賀滉大投手にお願いをして合同自主トレのメンバーに入れてもらった。この合同トレーニングに様々な球団の実績のある選手、若手選手が集まっていた。そしてこの年は上野も参加した。
誰もが知る日本ソフトボール界のレジェンドが千賀やジャイアンツの菅野智之投手らとフォームなどの技術論について熱く語り合っているのが印象的だった。種市ら若手選手には技術論はもちろん、人生哲学を熱く語ってくれた。
印象的だったのは失敗をする大切さを教えてくれたことだ。前年の2019年シーズンで種市は8勝2敗と大きく飛躍。背番号も「63」から「16」と出世を果たした。それでも、どこか自分に自信を持てずにいた。失敗を極度に恐れた。そんな姿勢を見透かされていたのだろう。自主トレで初めて出会った上野は人生において失敗をする大切さを語り続けてくれた。誰もが知る成功者の言葉はスッと種市の胸の中に入り込んできた。振り返ると失敗を恐れながらマウンドに向かう自分がいた。それが決して良い心構えではないことは客観的に自己分析するとすぐに分かった。
「ボクはどうしても失敗をしたらどうしよう。恥ずかしい。嫌だと考えていた。2019年も8勝したけど、ずっと負けるのを怖がりながら投げている部分があった。失敗をしたら二軍に落とされるのではないか、二軍に落ちるのは嫌だとビビっていた。上野さんは失敗をすることは大事だと言ってくれた。考え方を変えないとダメだなと思いました」
種市はソフトボール界のレジェンドの言葉をノートに書きこんだ。今でもそのノートは大切に保管してあるし、見返す。色々とアドバイスをもらい気付かされたことが多かったが、やはり失敗へのアプローチがミスへの恐怖心を持つ若者の心に刺さった。