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もはや“イジられキャラ”ではない 10年目の開幕スタメン、広島・上本崇司の“一生懸命”

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/05/13
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 開幕6連勝という最高のスタートを切ったカープ。その好スタートの裏には、下位打線ながら上本が出塁、ピッチャーが得点圏まで送り、1番の西川が打って上本がホームを踏むという方程式ができていた。まさに陰の立役者。本来なら西川は3番という構想だったが、そうならなかったことによって、開幕後のカープは下位打線から上位打線で得点するというスタイルを確立することができたのだ。

 これがチームにとってどれほど大きかったか。最近になって上本がスタメンから外れたり西川が3番になったりと変化は出てきたが、開幕からの8番・上本と1番・西川の流れは本当に頼もしかった。そしてその光景を見ながら、筆者は大人気マンガ「スラムダンク」のあるシーンをいつも思い出していた。

 物語の最大のクライマックス、伝説とも言える湘北高校と山王工業の試合。主人公の桜木花道の真の能力に気づいていなかった山王工業の堂本監督に対し、試合を観戦していた海南大附属高校監督の高頭は「湘北のこのいいリズムを生み出してるのが誰かわかってるか…堂本よ…それがわかってなけりゃ…ひょっとすると喰われるぞ…!!」と言ったあのシーンだ。まさに、上本はその桜木のようないいリズムを生み出していた。もちろん他の野手陣も、さらには先発陣も良かったからこその開幕ダッシュだったが、やはり上本の存在は大きかった。上本がヒットを打つ、あるいはフォアボールで出塁する度、筆者の中では高頭監督のあのセリフがいつも頭をよぎっていた。

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遅咲きの男には、木村拓也と同じ一生懸命な姿がよく似合う

 4月上旬。上本が広島のテレビ番組でインタビューを受けた際、自身の打撃論、役割についてこのように語っていた。

(1)2ストライクに追い込まれるまでは自分が狙った球しか振らない。
(2)2ストライクに追い込まれたら前に飛ばす気はさらさら無い。
(3)低めの見極めは自分にとっては絶対条件。
(4)打順の巡り合いをつねに頭に入れている。
(5)速球派の球は自分の力では簡単に前に飛ばせないのでどうにかファールで粘ってフォアボールで出塁し次のバッターに繋げる。
(6)フォアボールを取るのも自分の仕事。

 もちろんすべてがそのとおりになるワケではない。三振をすることもある。しかし上本は、しっかりとした考えを持って試合に臨んでいる。苦労して勝ち取った開幕スタメン、すべてがキャリアハイとなるであろう今シーズンを必死で戦っている。

 筆者が見ていて感じるのは、つねに「超がつくほど真剣」であることだ。打席での顔を見ていても、まるで「一瞬たりとも隙を見せてたまるか」と言っているかのような表情。とにかくその顔つきがすごい。険しいと言ってもいいかもしれない。前述したイジられキャラ、ムードメーカー。そういったこれまでの姿が消え去ってしまうほど気持ちが入っている。

 打席だけではない。たとえばランナーで塁に出ていて、2アウトの場面。バッターが凡フライを打ち上げる。観戦している側はついつい打球を追って「あ~あ」と嘆きがちだが、今後、ランナーに上本がいた時は打球ではなく上本を見てほしい。そこには、心を打たれるほどに全力疾走をしている彼の姿があるはずだ。

 同期の鈴木誠也がメジャーリーガーになった年にようやく開幕スタメンを手にした苦労人・上本崇司。その背番号「0」は、屈指のユーティリテイープレーヤーとして球史に名を残す木村拓也から受け継いだもの。上本は、入団してその背番号をもらった時に「むちゃくちゃ嬉しかった」と語っている。そんな木村拓也の座右の銘は「一生懸命」。そう、図らずも現在の上本の姿そのものなのだ。言うなればこれは「背番号0の系譜」。遅咲きの男には、木村拓也と同じ一生懸命な姿がよく似合う。そして、地元開幕戦のヒーローインタビューで放ったこの言葉。

――「僕ら最下位って言われてるみたいなんですけど、そんなん関係ねぇ。やっちゃろうや!!」

 そうだ。もちろんだ。どんどんいけ。やっちゃれ、タカシ!

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