文春オンライン
文春野球コラム

もはや“イジられキャラ”ではない 10年目の開幕スタメン、広島・上本崇司の“一生懸命”

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/05/13
note

 皆さんは「上本崇司」と聞いて、どんなイメージを抱くだろう? 多くの方は今シーズンの活躍を思い浮かべるだろうが、ご存知のとおり、昨シーズンまでの上本は開幕スタメン、いや、もっと言えばスタメンに名を連ねるような選手ではなかった。

 かつての上本のイメージは、プレイよりもキャラクター。たとえば2017年6月24日。降雨ノーゲームになった試合終了後、自分よりはるかにサイズが大きい新井のユニフォームを着て登場し、新井を真似した「エア打席」を披露。雨が降るグラウンドのバッターボックスに立ち、初球はエア見逃し、続いてはレフトスタンドへのエアホームラン。スイング後のポーズ、打球の見送り方、まさに新井そっくりで、二塁を回ったところで片膝をついて拳を突き上げファンの爆笑を誘う。その姿は、カープファンなら誰もが知っているであろう、2016年の試合で新井がサヨナラタイムリーを打った時の真似だった。

 その「新井イジり」の天罰か。翌々年に行われた新井の引退試合。全選手が列を作り順番に新井に声をかけて握手をしていく中、ようやく順番が回ってきた上本は新井に握手を拒否される。スタンドからは笑いが起こり、困り果てた上本は再び列の後ろに並び、2周目でようやく(新井は渋々)握手してもらうことができた。

ADVERTISEMENT

 その他にも、チームメイトの菊池涼介や年下の鈴木誠也からグラブで頭を叩かれるなど、チームの中ではイジられ役であったり、野間のヒーローインタビューで通訳に扮するといったパフォーマンスをするムードメーカーであったり、やはり、プレイよりもキャラクター性が先行しているタイプだった。

上本崇司

上本の活躍を見て思い出す「スラムダンク」のあるシーン

 上本の入団は2012年、しかもドラフト3位。完全無欠の上位指名だ。大卒ということで即戦力としての期待が大きかったのだが、順調に成長しチームの主軸として育っていったのは上本ではなくドラフト2位、高卒の鈴木誠也だった。もちろんふたりに求められる選手像は違うが、華々しく成長していく鈴木誠也に対し、上本は「下積みの日々」を歩み続けることになる。

 そんな上本が、苦労人の上本が今年、ついに開幕スタメンの座を手にした。開幕戦の試合開始前。スタメンを見た多くの人が驚いただろう。8番・上本。昨シーズンまでの一軍での通算成績は213打席で35安打、1割9分4厘。ホームランはおろか、三塁打すら無し。この数字だけを見ると、とてもじゃないが開幕スタメンを勝ち取れる選手ではない。しかし、上本はオープン戦で3割8分5厘という成績を残し、課題とされていたバッティングを克服。ついにその座を手にした。そして首脳陣の期待にしっかりと答えた。

文春野球学校開講!