スターが誕生する時には、その人の実力だけでなく「タイミング」が必要なのだろうな……とつくづく感じます。

 あまりに有名なのは、坂本勇人選手の逸話です。プロ1年目のシーズン終盤戦に代打で使われて、決勝のポテンヒット。翌年はセカンドで起用された開幕戦で、ショートの二岡智宏さんがまさかのケガ。神がかったタイミングでショートのレギュラーに抜擢されました。もし二岡さんがケガをしていなかったら、右打者最年少での2000本安打到達もなかったのかもしれませんね。

 あの1試合、あの1球の「たら・れば」で人生がひっくり返る。それがプロ野球の面白さなのでしょう。

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見る者を興奮へといざなう稀有な存在

 そして今年、新たな生え抜きスターの誕生を予感させるのが、22歳の若手内野手・増田陸選手です。

 6月3日、4日のロッテ戦では2試合連続ヒーローインタビューに呼ばれ、「なんとか自分の人生を変えたいと思ってやってきた」というコメントに心を打たれました。得点圏打率.462(6月17日時点)という恐ろしいまでの勝負強さも持っています。

増田陸

 今の巨人には涼しげな表情でプレーする選手が多いなか、増田選手は感情をむき出しにして試合中に吠えるファイターです。今の巨人でそんなタイプがいるかと言えば、坂本選手が年1~2回怒りの表情を見せることがあるのと、デッドボールを食らった直後の中島宏之選手くらいしか思い浮かびません。増田選手は見ている者も興奮状態に巻き込んでくれる、貴重なキャラクターなのです。

 増田選手と坂本選手には、高校時代の恩師が金沢成奉監督(明秀学園日立)という共通点があります。そのためか、増田選手の背番号は坂本選手の入団時と同じ61。昨年オフには育成選手に降格する屈辱も味わいましたが、背水の陣で臨んだ今季は3月に早くも支配下登録に復帰。今年1月には坂本選手と自主トレをともにし、「練習メニューを考えてこなかった」と坂本選手に叱られたというエピソードも残しています。

 昨年までファームでセカンド、サード、ショートを主戦場としていた増田選手ですが、1軍は吉川尚輝選手、岡本和真選手、坂本選手と大看板が君臨中。今季はおもにファーストを守っています。

 でも、「巨人のファースト」の歴史を思い出してみてください。2018年に岡本選手がメインで守った例はありますが(2020年からサードに)、それ以外はFA移籍選手、外国人選手、コンバートされたベテラン選手によって占められてきました。ベテランを除き巨人の生え抜きでファーストのレギュラーに君臨し続けた選手と言えば、駒田徳広さん(1981~1993年在籍)までさかのぼらなければなりません。

 今の巨人のファーストには、中田翔選手、中島宏之選手、ウィーラー選手と過去に他球団でベストナインを受賞した大打者がいるのです。若手にも身長2メートルの秋広優人選手という逸材がいて、増田選手がファーストのレギュラー争いに加わると予想できた人などいなかったのではないでしょうか。