プロ野球選手も最初から勇敢なわけではない。入団からジワジワと膨らみ続けていた焦りが自らの殻を破るキッカケになることもある。広島・中村奨成捕手は、今年にかける覚悟に背中を押され、これまでには見られなかったような逞しさを身につけようとしている。

中村奨成

「思い切って…」先輩・會澤に頭を下げた日

 自らを変える始めの一歩は、今春の日南キャンプだったかもしれない。バットを持つ手には汗をかき、少しばかり緊張しながら正捕手である會澤翼のもとに向かった。「アツさん(會澤)に聞きたいことがあるんですが……」。打撃指導をお願いしようと思い切って頭を下げた。

 バットのヘッドを投手側に倒して構えるのが會澤と中村奨の打撃フォームの共通点だ。この構え方は、正しくバットを出せなければ、軌道が遠回りして速球に差し込まれる可能性がある。中村奨にとって、バットを鋭く振り抜く會澤はこれ以上ない手本。そうとは分かっていながら、これまでは質問をする勇気が出なかった。

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「いままでの僕ならアツさんに質問するのも躊躇(ちゅうちょ)していたと思います。でも今年は勝負の年。思い切って聞いてみたいと思いました」

 會澤との年齢は11年離れている。加えて入団から長く続いた2軍暮らしも正捕手の會澤を遠い存在にさせていた。その壁を乗り越えるために振り絞った勇気を知ってか知らでか、會澤は当然のように後輩の思いに応えてくれた。「ヘッドが(投手方向に)入っていたとしても、結局バットが通るところは同じだから。バットを振りにいこうとするのではなくて、グリップを(球に)ぶつけていく、落とすイメージ」。ポジションが重なることを気にせず教えてくれたことに感謝し、バットを振り込んだ。

 昨季は構え方がしっくりこない時期もあった。そんなときは寮の自室で打撃映像に目を凝らした。その結果、構えた際のバットの角度が投手側に倒れすぎていると不振の原因にたどり着いたこともあった。「僕はヘッドを立てたまま構えるということができない。僕の打撃フォームは、アツさんと一番似ていると思ったので、どんな感じで打っているのかを聞いてみたかった。教えていただいた話を参考にさせてもらっています」。打撃フォームの試行錯誤を続けながら正捕手の背中を追いかけている。