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とにかく頭の中は野球のことでいっぱい

 森選手を初めて取材したのは、2020年のキャンプ直前でした。1月下旬のことなので、正確にはまだ高校を卒業していません。取材慣れしていない新人選手の場合、答えに詰まったり、黙り込んでしまったりすることも多く、そのために答えやすいプライベートの質問を多めに用意したのですが、森選手の場合、話題がプライベートに及ぶと答えに詰まってしまいます。

「入寮して最初に買ったものは?」「寮の食事で一番お気に入りのメニューは?」「好きな女性のタイプは?」といった質問には「うーん、なんだろう?」と考え込んでしまうのですが、野球の話になると急に舌が滑らかになるのです。

「今は練習(新人合同自主トレ)が楽しい。何を鍛えるための練習か、目的意識がはっきりしている」

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「1年目から一軍昇格は簡単なことではないと思うけれど、もしチャンスがあれば自分の武器である足や肩で貢献したい」

「まだ何の結果も出していない新人の練習を見に来てくれる人がいる。そんな人たちの期待を裏切らないようにしっかり練習して、1年でも長くチームの勝利に貢献できる選手になりたい」

 とにかく頭の中は野球のことでいっぱい。ドラフト1位のプライド、というより責任感のほうが勝っているような、そんな感じなのです。実際、森選手は“練習の虫”と評判です。周囲が止めるまで黙々と練習していることも珍しくないそうです。まだ高校生なのにしっかりしているなぁと感心した記憶があります。

 余談にはなりますが、イマドキの若者っぽい部分もちゃんと見え隠れします。たとえばスキンケア。青星寮の森選手の部屋には、入口近くの棚に、大量のスキンケアグッズがずらりと並んでいます。ニキビが嫌で肌の手入れを欠かさないそうですが、スキンケアにハマった理由が「中学生の時におばあちゃんがプレゼントしてくれたクリームがきっかけ」という、実にほのぼのとしたエピソードを披露してくれました。

 性格も明るく、ムードメーカー的な役割を担うこともあります。京山将弥選手や益子京右選手、知野直人選手ら、仲の良いチームメイトは「イケメンだからクールと思われているかもしれないけれど、積極的に盛り上げ役をやるし、すごく面白いヤツですよ」と話しています。佐野恵太選手がそうであったように、ムードメーカーは実力が伴っていくことでチームリーダーへと成長していきます。森選手にもその資質があるように思えます。

すべてのベイスターズファンの期待の星であり、明日への希望

 そんな森選手も今年で3年目。そろそろ一軍での結果が求められる年になってきました。目標はもちろん遊撃のレギュラー獲りです。今シーズンはケガのために出遅れはしたものの、交流戦半ばで一軍登録されると、まず走塁と強肩で注目を集めました。6月19日の阪神戦では、相手の守備の乱れを突き、一塁から長駆ホームイン。6月22日の巨人戦では、宮崎敏郎選手がはじいた三遊間のゴロを素早くカバーし、矢のような送球で一塁アウトに。どちらのプレーも球場が大きくどよめきました。そしてスタメン起用が増えてくる中で飛び出したのが、冒頭のプロ初ホームランだったのです。

 他球団ファンからみれば「ホームランを1本打ったくらいで、何を浮かれているんだ」と思うかもしれません。しかしベイスターズのオールドファンにとって「1番ショート」は特別な響きであり、それを体現してくれるだろう森敬斗選手は、すべてのベイスターズファンの期待の星であり、明日への希望なのです。

 もちろん課題はまだまだあるでしょう。しかし野球に向き合う姿勢、周囲を盛り上げる明るい性格、チームに勢いをつけるダイナミックなプレーは、「1番ショート」の系譜に名を連ねるのにふさわしく思うのです。

 “昭和の山下大輔”、“平成の石井琢朗”、そして“令和の森敬斗”。走攻守+リーダーシップ+イケメンの5拍子そろった「1番ショート」。なんというロマンでしょう。

 前年の最下位を受けて「横浜反撃」をスローガンに掲げた2022年の横浜DeNAベイスターズですが、残念ながらここまでは苦しい状況が続いています。1番打者も遊撃手も固定できてはいません。そんな中にあって森敬斗選手は、ベイスターズファンにとっての明るい未来の象徴でもあります。「1番ショート、森」というアナウンスを、当たり前のように聞けるようになる日が待ち遠しくて仕方ありません。

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