心細い22歳の背中を陰で支えてくれた“憧れのヒーロー”
身長は171センチと小柄だが、体をめいいっぱい使ったフルスイングから放たれる打球は体のハンデを微塵も感じさせない程の飛距離と非凡なミート力があった。松井はルーキーながらに奮闘する姿を見て「走攻守にたけているし、センスを感じる。試合に出ていても全力プレーで、見ていて気持ちがいいね」との印象を抱いていた。
茂木は1年目から117試合で打率2割7分8厘、7本塁打、40打点をマーク。新人王候補にも選ばれるなど上々の結果を残した。打撃もさることながら、この年から本格的に始めたショートへのコンバートを成し遂げた。右も左もわからない状況からのスタート。心細い22歳の背中を陰で支えてくれたのが、憧れのヒーローだった。
「プロ1年目からショートを始めて、なかなかうまくいかないことも多かったなかで稼頭央さんが声をかけてくださったり、守備の面でもアドバイスもいただきました。僕とは動きが全然違うので、まねできないなと思うこともありましたけど、すごくありがたかったです。あんなにすごい選手でも基礎を大事にしているんだと勉強になりました」
一見、派手に見えるプレーの根底には堅実な基本動作がある―。当たり前のようだが、大きな学びだった。
松井が2018年限りで現役を引退し西武のコーチに就任した後も、これまで受けた恩は忘れていない。メジャーも経験し、名球会入りも果たしているレジェンドに対して「恐れ多すぎてしゃべれませんよ」と1年目は萎縮していたものの、今では少し“改善”も見られたようで、試合前に相手ベンチに必ずあいさつに向かう。近況報告も兼ねて必ず声をかけてくれる先輩の優しさに触れるごとに「いつか成長した姿を見せたいな」と思うようになった。
昨年11月25日に行った腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けた。「シーズン中に離脱することが多かった。1年間通して試合に出られたのは1年間しかなかった。何かを変えないといけないので、手術をする選択をしました」と大きな決断を下した。ベッドに寝たきりの状態から、地道なリハビリを乗り越えて万全の状態で開幕を迎えるも、春先に新型コロナ陽性判定を受けてつまづいた。
今季はここまで打率1割台に低迷し「情けない成績しか残せていない」と自らを責める。1年目からレギュラーとして遊撃と三塁のポジションに座ってきたが、危機感は常に持っている。「毎年、いい選手が入ってきますし、試合に出て活躍しないと自分が出るポジションもなくなっていく。昨年は期待を本当に裏切ってしまったので、今年は何としても取り返したい気持ちが強くある」と今季に懸ける思いを胸に、不振脱出の機会を伺っている。
8日からは本拠地・楽天生命パークでの西武との3連戦に挑む。「稼頭央さんにちょっとでも成長した姿を見せたいというのはもちろんあります。でもまずはそこまで1軍にいられるように結果を出さないといけない」と気合を入れ直した。
逆襲はここからだ。相手ベンチにいる永遠のマイ・ヒーローの前で格好いいところを見せようじゃないか。
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