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「ささいな遊びやゲームでも人に負けると勝つまでやるんですよ」

 自他ともに認める“負けず嫌い”。

 法政大学の先輩でもある三上朋也は、三嶋を以下のように評している。

「わかりやすいんですよ。普通の人は自分を装ったり、いいところを見せようとするけど、三嶋はそれをしない。『何で俺はこれができないんだ!?』って真剣に悩んで、一生懸命にアプローチする。素直に生きているし、それは他の人にない才能だと思いますね。あと負けず嫌い。野球はもちろん、ささいな遊びやゲームでも人に負けると勝つまでやるんですよ。その執念は凄まじいですね」

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 こう三上が言っている横で三嶋は「うんうん」と頷くのだ。

 そして後輩に対しては優しく頼りになる先輩だ。自主トレをともにする山﨑康晃は言う。

「誰に対しても気軽にしゃべりかけてくれるし、チーム全体を明るくしてくれるんですよ。疑問があると先輩なのにいろいろと訊いてきてくれるし、『ヤスこれどうなってんの?』って言われると、何かすごく嬉しいんですよね」

 大学の後輩の石田健大は、三嶋の存在の大きさを次のように語る。

「前に出てなにかを言うタイプじゃないけど、気迫あるプレーでみんなを引っ張ってくれるんです。投手も野手も三嶋さんを見てがんばろうって背中で語ってくれるんですよね」

たくさん失敗をしてきたからこそわかること

 チームに欠かすことのできない背番号17――。

 2020年は不調だった山﨑に代わりクローザーを任された。それから2年、チームの守護神として務めを全うしていたが、その間で一番印象深かったのがチームメイトを慮っての言葉だ。

「スポーツニュースでセーブのところに自分の名前が出たりするじゃないですか。すると周りの人は『がんばってるね』と言ってくれるんです。嬉しいですけど、僕はこれまでどんな場面で投げようが変わらずがんばってきましたからね。それに負けている試合であっても必死に投げている中継ぎピッチャーがたくさんいる。だからちょっとだけ寂しい感じもするんですよ。注目を浴びなくても、チームのためにがんばっている選手はたくさんいるんだよって」

 たくさん失敗をしてきたから、いろんな経験をしてきたからこそ、人の気持ちがわかる。だから三嶋はクローザーになっても安閑とすることなく、自身を戒めていた。

「セーブを挙げても一喜一憂できないんですよ。いつ足元をすくわれるかわからないし、そう思うと心の底から『よっしゃ!』とはならない。ただそれを周りに見せちゃダメだし、つらくても強がることが大事。常に攻めていく気持ちを見せないと」

 そう語ると三嶋は、どこかで聞いたようなことを言った。

「まさか僕がクローザーをやるとは、誰も思ってなかったでしょうね」

不屈の闘志で這い上がってきた三嶋が、このまま終わるはずはない

 手術を終え、現在リハビリ中の三嶋がいつ復帰をするかは現在のところはわからない。また国が指定する難病ということは、効果的な治療方法が確立しているとは言い難い。厳しい戦いであることは間違いないだろう。

 ただこれまで幾度となく辛酸をなめながらも不屈の闘志で這い上がってきた三嶋が、このまま終わるはずはないと信じている。

 手術後、三嶋は次のようなコメントを出した。

「自分を信じて、前を向いて、前よりももっと強くなって帰ってきます!」

 誰よりも素直で、負けず嫌いの男は、きっと執念で病を越えて帰ってきてくれるはずだと、誰もが思っている。8月31日の中日戦(横浜)で山﨑がお立ち台で語った言葉がすべてだろう。

「先日発表があった通り、三嶋さんが本当に一生懸命戦っています。ブルペンとしても一日でも早く(三嶋さんが)復帰できるように一生懸命がんばっていきたいと思っているので、皆さんも三嶋さんにエールを送っていただけると助かります」

 誰もがチームのため、自分のため、仲間のため、延いては三嶋のために頂点を目指し戦っている。

 想像する。三嶋がカムバックをして歓喜の輪のなかでハイタッチをしている姿を。そして試合後、ニヒルに微笑みながら言うのだ。

「まさか僕があの病気から完全復帰するとは、誰も思ってなかったでしょうね」

 三嶋一輝にエールを――。

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