わたしはキャッチャーが好きだ。

 キャッチャーというポジションについて先年亡くなった野村克也さんは言った。

「1球ごとにピッチャーにサインを出して、野球というドラマの脚本を書くのがキャッチャー。第2の監督だ」と。

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 野村克也さんの著作を貪るように読むうち私はいつしかキャッチャーを中心に野球を見るようになった。

 私の職業はアナウンサーで、番組ではMCを担当することも多い。「全体を見る」という点でキャッチャーの思考にシンパシーがあるのかもしれない。

 特に気になるのはキャッチャーの目。

 打席に立つバッターを背後から見上げるキャッチャーの目だ。相手を「仕留める」ために思考を巡らせる目。

 野球には「殺す」というぶっそうな用語(刺殺、併殺、挟殺など)がたくさんあるが、キャッチャーはまさにバッターの背後に潜む殺し屋だ。

 じっと構えて殺す方法を探している。

 恐ろしい目をしている。

 彼らはキャッチャーマスク越しの自分の目がじっくり見られているとはまさか思っていまい。

 無防備な殺し屋の姿が面白い。

 カープの會澤翼、タイガースの梅野隆太郎など目つきの鋭いキャッチャーは多い。しかし12球団のキャッチャーの中でいちばんスナイパーの目をしているのがベイスターズの嶺井博希である。

嶺井博希 ©文藝春秋

嶺井博希は勝ち運という星のもとに生まれているスナイパーだ

 嶺井博希は幼い頃から優秀なスナイパーとして英才教育を受けてきた。

 彼は自分がスナイパーとして優秀と信じて疑わなかったと思う。事実、彼は高校生の段階で全国に名を轟かせている。

 沖縄尚学高校で1年春から正捕手の座をつかみ、2年時には選抜高校野球大会に出場。1学年上の東浜巨とバッテリーを組み、全国優勝を果たす。

 沖縄出身の私はこの時の沖縄県民の喜びようをよく覚えている。

 そして彼は亜細亜大学に進むと1年の秋には早くも正捕手のポジションをつかみ、4年間で6度の東都大学リーグ優勝。さらには4年秋の明治神宮野球大会では日本一に輝く。

 嶺井博希は勝ち運という星のもとに生まれているスナイパーだ。

 亜細亜大学でバッテリーを組んだ東浜、九里亜蓮、山崎康晃がプロ野球で活躍していることからもわかるように好投手との縁も運の良さだろう。

 スナイパーには運も必要なのだ。

 そして2013年横浜DeNAベイスターズからドラフト指名を受け、プロの世界へと足を踏み入れる。

 このときベイスターズファンの私は震えた。

 沖縄の星(捕手)はあっという間にベイスターズの正捕手になり、キャプテンとしてチームを引っ張るだろうと信じて疑わなかった。

 高校時代から嶺井はそれが約束された捕手だったからだ。

 しかしプロ入りしてからの嶺井は決して順風満帆ではなかった。