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頑なに「泣いていない」と言い張る山田

塩見「泣いていましたよ(笑)。演説していました」
山田「演説はしましたけど、泣いていません(笑)」
塩見「泣いていましたよ。涙がうるうる来ていたので。哲さん本人は絶対に泣いていないと言うんですけど、僕もムネも、全員が『哲さんが泣いている』と思っていました。哲さんの言葉はみんなの心に刺さったと思います」
山田「全然泣いてない」

 頑なに「泣いていない」と言い張る山田と、それでも「泣いていましたよ」としつこく繰り返す塩見の対比がとても微笑ましいインタビューだが、やはりこの場面を脳内で想像してみると、このとき山田はどんな思いで「助けてください」と口にして、涙を浮かべて頭を下げたのだろう? 想像するだけで、胸が詰まる思いだ。

 本来ならば、「自分がここから頑張るから、しっかりついてきて」と、山田は言いたかったのだという。でも、その言葉すら口にできないほど絶不調の極みにあった。一連の記事を読んで、録画していた前夜の試合終了直後の映像を改めてチェックする。

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 やはり、山田が泣いている。山田哲人が人目もはばからずに嗚咽している。村上に抱かれるようにして、涙にむせている。その光景を見て、一夜明けてもやはり胸がいっぱいになった――。

「山田哲人をナメてもらっては困る」

 2020年の監督就任以来、アルファポリス公式サイトにおいて「髙津臣吾監督インタビュー連載」を担当している。3年目の今シーズン、とても印象的なやり取りがあった。絶不調にあえいでいた山田について尋ねたときのことだ。この頃、マスコミやファンの中では「休ませた方がいい」「下位で気楽に打たせた方がいい」「一度、ファームでじっくり調整した方がいい」など、いろいろな意見が噴出していた。

 こうした状況下で、髙津監督は8月14日の対横浜DeNAベイスターズ戦において、山田を「一番・セカンド」で起用した。そしてこの試合で山田は、初回先頭打者、その初球をホームランにした。神宮球場で見ていて鳥肌が立った瞬間について尋ねたのだ。このとき、髙津監督は言った。

「あんなことができるのが山田哲人ですよ。確かに今は、決して状態がいいとは言えないですけど、山田ですからね。山田哲人ですからね。そこを忘れてもらっちゃ困るなっていうのは思います。もちろん、山田だからこそ“もっとできるんじゃないか?”“こんな数字じゃダメなんだ”って言われたら、もうその通りだと思います。でも、山田哲人なんです。それがすべてだと思いますね」

「山田は山田だから」

 この言葉にも鳥肌が立った。「山田ですからね。山田哲人ですからね。そこを忘れてもらっちゃ困る」、このときの監督の口調は実に誇らしく、僕の耳に届いた。普段、こんなことはめったにないのだが、この一連のやり取りだけはスマホに保存しており、折に触れて何度も聞き返している。

 そうなのだ、「あの山田哲人」なのだ。監督は口にはしていなかったけれど、間違いなくこの言葉には、「山田哲人をナメてもらっては困ります」というニュアンスが、言外に含まれていた。本当にその通りだ。

 山田本人も、そして高津監督も口にしているように、確かに今シーズンの山田はベストパフォーマンスを披露できていたとは言い難い。けれども、「あの山田哲人」なのだ。髙津監督が言うように、「山田は山田」なのだ。これからクライマックスシリーズが始まる。その先には日本シリーズも待っている。球団史上初となる「2年連続日本一」に向けて、山田の存在は絶対に欠かせない。山田ならやってくれる。僕は確信している。なぜなら、「山田哲人だから」だ。「山田は山田だから」だ。

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