選手たちの振る舞いには多くの「学び」があった
勝ち負けだけではない。2月17日に始まった宮崎市での強化合宿から、選手たちの振る舞いには多くの「学び」があった。
ダルビッシュ有(パドレス)は、「長く日本にいなかったので、日本の選手たちと仲良くなりたい」と、最年長の36歳でありながら決して偉ぶることなく、自ら後輩たちに声をかけた。
人見知りの宇田川優希(オリックス)が緊張と気後れから溶け込めていないと見るや、食事会を開いて、その心を解きほぐした。
日本語がほとんど話せないヌートバーが合流すると、チーム全員で「たっちゃんTシャツ」(たっちゃんはヌートバーのミドルネーム「たつじ」から取った愛称)を着て歓迎。ヌートバーも覚えたての日本語で積極的にコミュニケーションを取った。
チェコ戦では、佐々木朗希(ロッテ)から豪速球で死球を食らった相手選手が、「大丈夫だよ。心配するな」と言わんばかり、全力で走れるところをアピール。その姿を一塁手の山川が気遣い、佐々木も攻守交代の時に謝罪した。
山川が言う。「素晴らしいですよね。真剣勝負なので、怒りの表現が出ることもありますけど、僕はスポーツってクリーンにやるべきだと思っている。ああいう姿はいいなと思いました」。
友人への気遣いやコミュニケーション。新しい仲間を受け入れる優しさ、相手へのリスペクト……。これらは、野球の世界に限ったことではない。学校や会社、友人関係など、一般社会でも共通する大切なことだ。
「野球っていいスポーツだな」と、どれだけの人が感じてくれるか
野球人気の低迷が叫ばれる中、このWBCはこれまで野球に興味がなかった人たちも多く、侍ジャパンを見てくれている。
先日、私が通う美容院のお姉さんもこんなことを言っていた。
「大谷、めっちゃかっこいいですよね! 専門的なことは全然分からないけど、なんか野球見ちゃっています。『野球やりたい』ってなる子どもたち、絶対増えそう」
WBCを入り口に、野球に興味を持つ子どもたち、そしてその親御さんたちが増えたときに大切になるのが、そういった一つひとつの選手たちの振る舞いではないか。
うまい下手、勝ち負けだけではない。「野球っていいスポーツだな」と、どれだけの人が感じてくれるか。
村上に野球をやってよかったことを聞いたことがある。「こうやってプロ野球選手としてやれていることもそうですし、礼儀だったり、挨拶だったりというのは社会に出ても大事なことなので、そういうところを学べたのもよかったと思います」
さらに今回、うまくいかないときも、前を向いて、今できることに集中するということも体現している。
伝わってくるものは十分にある。
「このチームで4番を打ちたい」。決して誰でも背負えるわけではない、この重責を望んだのは村上自身だ。もちろん、望んだからといってその打順に座れるわけでもない。
さあ、あとは待つとしよう。背番号「55」のバットから、豪快なホームランが放たれるそのときを――。
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