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「僕は日本代表のユニフォームを着て世界の頂点を目指したい」吉田正尚の熱い思い…大谷、ダルらWBC戦士たちの忘れられない言葉

文春野球コラム 文春WBC2023

2023/03/22
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「今すぐベンチに行けるかな? 俺が采配を振るって今すぐ日本を助けるから、世界一にするから、ユニフォーム着てベンチに入らせてほしい」

 第2回大会。日本がピンチを迎えるたびに第1回大会監督の王貞治さんはスタンドで「助けに行く」「俺が何とかする」という言葉を連呼していました。

「世界一になる」「トップに昇り詰める」

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 シンプルにこれこそがキーワードだった。原点でした。

 2023年3月22日。日本野球がWBCにおいて、再び世界一になった瞬間、侍ジャパンにおける過去の様々なシーンが湧き上がってきました。

 選手たちは世界一になりたい。そう願い、想い、過ごして来ました。

 日本は、野球は世界に誇れると。野球をもう一度、復活させると。みんな思って戦ってきました。世界の頂点に立つために想像を絶する感情と向き合ってきました……。

 大谷選手が雄たけびを上げ、帽子とグラブを放り投げ、世界一になった瞬間、様々な言葉が心の中から湧き上がってきました。今回は今までの取材の中でため込んできた様々なシーンをお伝えできればと思います。

大谷翔平と筆者 ©田中大貴

世界一に輝いた2009年大会、王貞治さんの心が震える言葉

「俺が監督やるよ。今すぐベンチに行くよ。今すぐ日本を助けるから、世界一にするんだから。ユニフォーム着てベンチに入らせてほしい、頼むよ。」

 日本がWBCにおいて最後に世界一に輝いた2009年大会。王貞治さんはスタンドで「助けに行く」「俺が何とかす」という言葉を連呼されていました。ピンチを迎えるたびに物凄い形相で。はじめは冗談かと思っていました。僕ら取材陣に真剣に訴えかけている姿を見て、心が震えました。野球に捧げる情熱、世界トップになるこだわりを感じる迫力でした。

 自分の為なんて言えない、あの空気は。これが日の丸を背負う空気感。恐怖にも感じる環境へ飛び込んでいっている。

 ファンの皆さんに、野球をやっている子供たちに、そして代表に選ばれなかったプロ野球選手たちに日本の野球が世界一だと証明して、誇りに感じてもらいたいと思っている。代表のユニフォームを身にまとい、感じたことのない鉛のような重い緊張感と闘い、使命を感じて過ごす時間が「日本のため、野球のため、関わる皆さんのため」という想いに到達する。

「吐き気が止まらなくて…」宮本慎也、青木宣親が教えてくれた言葉

「あの緊張は感じたことがない。打球が自分のところに飛んでくるな、飛んでこないでほしいと思うことさえあった。初めて感じる感情でした」

 宮本慎也さんや青木宣親選手が世界一になった直後に教えてくれた言葉でした。

「吐き気が止まらなくて……毎試合、吐きそうになっている自分がいました。初めてです、あの緊張感は」

 日の丸を背負い、日本の投手陣をリードする重圧により甲斐拓也選手は嗚咽する自分と、嘔吐しそうになりそうな自分と毎試合向き合ってきました。

 世界一への重圧を、日の丸を背負う重圧をいかに撥ね除け力に変えるか……。

「アメリカの大地からパワーをもらうぞ。土を踏みしめよう。しっかり地面に足を着けて、大地からの力を感じて、爆発させよう。さあ、世界一へ、行くぞ」

 第2回大会、試合前のミーティングで原辰徳監督がロッカールームで全員に掛けた言葉でした。フワフワする感覚さえ感じる決勝ラウンドの舞台。敵地に乗り込んでの試合。原監督からの地に足を着ける、大地から力をもらう、土を踏みしめると言う言葉。これで身体が楽になったという選手が多くいました。

「大好きです」川﨑宗則がイチローに送ったメール

「『イチローさんが苦しんで苦しんで、最後に決勝タイムリーを放ってくれて僕らは心底嬉しかったです。イチローさんのことがもっともっと大好きになりました。一緒に戦えたことに誇りを感じています。大好きです。』って、ムネが大会が終わった後、僕にこんなメールをくれたんです。嬉しかった。いやいや、俺の方がムネを、代表の選手たちをもっと好きになった。たまらく嬉しいメッセージでした」

 第1ラウンドから結果が出ず、苦しむ世界のイチローを若手たちが息を飲むように見ていた。これが世界と向き合う呪縛、重圧だと。

 それを乗り越える姿を目に焼き付けていた。そしてイチローという存在をさらに大好きになった。川﨑宗則選手がイチロー氏に送った言葉でした。

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