「野球選手が偉いというのはない」
澤村はスタッフとして通訳を見るのではなく、友、戦友として接した。最初、荷物を持とうとしたが、それは断固、断った。「そういうのは嫌だ。荷物は自分で持つと伝えました」。いくら身の回りのサポートをしてくれる立場とはいえ、重い荷物まで持たせて、自分が楽をするのは澤村の流儀に反した。
「野球選手が偉いというのはない。そういう考え方はしたくない。ちょっと人より野球がうまいだけ。常に友達として接してもらった。共に成長した日々だった」
こんなこともあった。昨年、全日程終了後には一緒にサンディエゴにダルビッシュ有が先発をする地区シリーズを見に行った。
「トレーニングをしていたのですが、どうしてもテンションが上がってこなかった。ふとダルビッシュさんを見に行きたいと思い立ったんです。見て、刺激を受けたいなあと。だから急ですが誘って、一緒に見に行ったんです。それでもすぐに来てくれる。そんな関係です」
強い信頼関係で結ばれた2人は今年、別々の道を歩むことになった。澤村はアメリカを離れ、マリーンズに活躍の場を移した。出会いがあれば必ず別れはある。2年間、ずっと一緒に過ごしてきた仲間との別れは寂しかったが、それぞれの人生を進むことを決めた。そして感謝の想いをLINEで伝えた。
「別々の道を進むけど、これからも選手と通訳という立場ではなく、友達でいよう。アメリカでは色々なことがあった。良いことも悪いこともあった。どんな時も雄太郎の献身的な姿勢はオレにとって鑑のような存在だった。共に笑い、共に泣き、共に苦しみ、全てのことにおいて心から感謝をしている。ありがとう」。これは澤村の感謝の想いの、ほんの一部を抜粋したものに過ぎない。長い文章で思いを綴っていた。
澤村語録に吸い込まれ目を輝かせる若手選手たち
澤村は1月にマリーンズで入団会見を行うと「マリーンズの優勝のために来た」と強く語った。チーム合流後は積極的に若手選手たちと交流。アメリカでの経験を惜しむことなく伝えている。オーラ抜群、実績十分の澤村になかなか話しかけられない若い選手には自ら歩みより話しかけ、技術論だけではなく人生論まで語る。早くもマリーンズの中心的存在となっている。
若手選手たちは澤村語録に吸い込まれ目を輝かせる。「今を当たり前と思うな。ユニホームを着ていられるのは当たり前ではない。幸せなことだ」と諭したこともあった。「結果はコントロール出来ないけど、その過程はコントロール出来る。だから日々の過程を大事にしろ」と教えたこともあった。また大人しい今の選手たちに「感情表現は人間らしくていいことじゃないかな」と勧めたこともあった。
「やっぱりアメリカでの2年間は大きいです。物事の本質を冷静に見えるようになったように思う。人のこと、人の目も気にならなくなりましたね。生活の中にある、ちょっとした自分の思い通りにいかないことなんかも許せるようになりましたよ。それも全てアメリカで一緒に生活をした山口雄太郎の存在が大きい。共に成長したから」と遠い地にいる友を想った。
山口雄太郎は今、野球とは離れアリゾナで新しい生活を始めている。そんな友に、澤村は最後に「どんな道に進んでも心底応援しているし支持をする。自分の夢の実現のために前に進め。オマエは出来る!」と熱いエールを送った。友もまた、きっと日本に戻った澤村の活躍を楽しみにしているし、応援をしているに違いない。
澤村は3月29日、ZOZOマリンスタジアムで汗を流すと、空路、福岡入りをした。3月31日、マリーンズは敵地福岡でホークスとの3連戦で新しいシーズンを迎える。通算100セーブまであと25。100ホールドまで36。日米通算1000投球回数の節目まであと28イニングとしている。澤村の新たな戦いが始まる。新しい挑戦をする友のエネルギーになるようなパフォーマンスをマウンドから繰り出す。
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