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いつかの暑い夏に聞いた、心有る声掛けが胸に甦る――

 それでも、監督を引き受けていただけた。

 勝負に対して楽観視できないことは松井監督自身も重々わかっていたものとは思いますが、監督を引き受けていただけた。

 本当にありがたく思います。

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 もちろん、優勝は見たい、日本一は見たい、毎年見たい、100戦100勝に越したことはありません。ただ、それが夢のすべてではありません。我らがヒーロー松井稼頭央を監督に迎えて、ともに優勝すること、松井監督の胴上げをすることも大切な夢なのです。いつか叶えたいと思ってきた大切な夢のひとつなのです。だから、待ちます。辛抱強く待ちます。SNSに乱れ飛ぶ罵詈雑言に真っ向から逆らって待ちます。シーズン100敗だろうが、松井稼頭央とともに過ごすのなら望むところです。勝てないことも、苦しいことも、全部ひっくるめて楽しみながら待ちます。

 請い願って迎える以上、どんな監督に対してでも3年は時間を与えるべきだと僕は思います。まして、それが球団とファンにとって大切なレジェンドであるならば、5年は時間を与えてしかるべき。その5年での育成や成長を含めて、何もかもが思うようにいかなかったとしても、レジェンドに対してこちらからナタを振るうことはあってはならないと思います。激励のうえで1年待ち、なおすべてがうまくいかないならば進退を問うてさらに1年待つ。それでもどうにもうまくいかないのなら、契約満了をもって円満に旅路を終える。つまり7年。7年待つ。7年700敗まで待つ。これはいちファンとしての偽らざる本心です。700敗してもファンを止めることはないし、怒って暴れることもありません。約束します。誓います。

 松井稼頭央ともう一度優勝できるかもしれないのなら。

 あるいは松井稼頭央ともう一度優勝する夢を諦めるのなら。

 それだけの時間を捧げるべきだし、それをせずには未来に進めないのです。

 僕は今も「稼頭央なら何とかしてくれる」と根拠なく信じています。松井監督が頻繁にSNSで非難される「代打栗山」「代打金子」といった采配も、彼らが1年や2年のまぐれ当たりではなく、プロとして長い年月を生き抜いてきた底力を信じてのことだと確信していますが、同じように僕も松井稼頭央監督を信じています。松井監督が、素人衆が訳知り顔で非難するような無能無策で勝負勘がなく野球を知らない愚将であるはずがない。そんな人物が日米通算2705安打を放てるわけがない。工夫と努力、改善と前進、負けん気と粘りがなければそんな高みに到達できるはずがない。ならば、たとえ今は名監督とは呼ばれない新人監督だとしても、必ず光り輝くときは来る。

 それを信じ切れず、こんな状態のチームを渡しておいて1年や2年で松井監督を断ち切るようなことがあれば、球団末代までの恥だと僕は思います。ライオンズファンの名折れだと僕は思います。それは負けることよりも耐えかねる後悔となります。さらなる人材流出を加速させる愚の骨頂だと確信します。松井稼頭央ですらそんなぞんざいな扱いをする球団とファンが、誰に「生涯ライオンズ」など求められるでしょう。「生涯」を求めるというのは、健やかなるときも病めるときも富めるときも貧しきときも愛し敬い慈しむということです。調子のいいときだけ利用するようなことでは断じてない。

 SNSには心無い声があふれ、ついには現場でも一部の選手に向かって「働け! 働け!」などというコールが行なわれたという今季、何が応援で誰がファンなのかすらわからなくなるような日々です。松井監督は、現役当時から変わらない「決して怒らず」の姿勢でそれにじっと耐えているものと思います。選手を信じ、信じた自分を信じ、結果を受け止めて、黙しているのだと思います。どんな結果も受け止めるその笑顔に救われます。ありがとうございます。

 そんな今季だからでしょうか、松井稼頭央“選手”がアメリカに旅立つ前、まだ屋根の架かっていない西武球場で聞いた知らない誰かの声掛けが、やけに胸に甦ってきます。あれは今まで聞いた声掛けで一番心に残る声掛けでした。周辺の人はクスクスと笑っていましたし、僕もクスクスと笑いましたが、同じ気持ちでした。暑い夏の日差しのなかで、打席に入る松井稼頭央“選手”の背中に向けて、サラリーマン風の若い兄さんが飛び切り大きな声で叫んでいたあの言葉。

「カズオー! 俺はー! お前がー! 好きだー!!」

 その気持ちに、あの日も、今も、同意です。

 何があっても最後まで貫きます。

 どうぞ、自分を信じて、未来への采配を存分に振るってください。

 7年あれば、そのどこかで胴上げできると僕は信じています。

 それを待てないようなことがあれば、悪いのは、待てなかった我々のほうです!

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