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葬儀社から西武スカウトに転身しドラ1を7人獲得…選手が“お父さん”と慕う凄腕の素顔

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/07/04

 ここ数年、外野のレギュラーを固定できていないライオンズで、6月23日の楽天戦で一軍デビューしてから活躍を続けているのがドラフト1位のルーキー蛭間拓哉選手だ。25日の楽天戦でプロ1号ホームランを放つと、28日の日本ハム戦では決勝点につながる四球を選んでいる。

 待望の一軍初昇格を控えた22日、僕もベルーナドームに話を聞きにいった。いろんな人から連絡が来たという中で、特に印象的だったのが担当スカウトの竹下潤さんに言われたという言葉だった。

「一軍の投手は(二軍の投手より)コントロールがいいので、慣れてきたら打てる確率が上がってくると思うよ。頑張ってきてね」

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 あくまで僕の印象だが、スカウトは入団するまでじっくり視察して獲得につなげ、入団以降は監督やコーチ、選手寮の寮長などに世話を任せるものだと思っていたけど、違うんだな。どうやら、選手とスカウトの関係はもっと深いようだ。

 果たして、両者はどんな関係を築いているのか。スカウトとは、どのような仕事なのだろうか。じっくり話を聞いてみたくなり、取材を申し込んだ。

「もう野球はピリオドを打った」

 僕は一度、竹下さんに仕事でお世話になったことがある。2017年ドラフト1位で齊藤大将投手のライオンズへの入団が決まり、当時通っていた明治大学に話を聞きにいくと竹下さんが居合わせた。以来、現場で会えば挨拶し、少し話をする間柄になった。

 竹下さんは1992年から2003年までライオンズで左腕投手として活躍。戦力外となったオフに入団テストを受けたが声がかからず、あきらめて野球と決別することにした。

現役時代の竹下スカウト ©時事通信社

 そうして一般企業への就職活動を始めるが、なかなか思うようにいかない。結局、駒澤大学のOBの方から声をかけてもらった葬儀社の営業職に就くことになった。

 傍目には野球のキャリアをまったく活かせないように見えるが、竹下さんにはその方が良かったという。もう野球はピリオドを打ったから、と。

 多くの人にとって葬儀社は馴染みのない世界だろうが、竹下さんにはむしろ好都合だった。例えば自動車メーカーに営業として入った場合、ゼロから始めた自分より自動車に詳しいお客さんはたくさんいる。でも葬儀社なら、自分よりその世界で詳しいお客さんはあまりいない。

 確かにそのとおりだ。今から知識を蓄えていけば、お客さんより優位に立って営業できるだろうと竹下さんは考えて、新たな世界に飛び込んだ。

「プロ野球選手→葬儀社の営業」というキャリアを聞き、僕の興味は俄然湧いた。果たしてここから、蛭間選手にどう結びついていくのだろうか?

 葬儀社に入社した竹下さんは、営業として担当地区を飛び込み営業で回り始めた。家々のインターホンを押すが、「うちはそんなものはいらない」とことごとく一蹴。想像しても、葬儀社の飛び込み営業は難しそうだ。竹下さんはなんとか会話のとっかかりをつくろうと、ピンクのシャツを着て行ったり、蝶ネクタイをしたりと工夫を施した。

 そうして営業で回る一方、神宮球場に大学野球を見に通った。野球と完全に決別したから、野球の現場に足繁く通うことができたという。そこで知り合いのスカウトに出会い、葬儀に関する相談を受けることもあったそうだ。

 そんな日々を送るうち、2008年、当時ライオンズの球団編成部長だった鈴木葉留彦さんから「スカウト、どうだ?」と誘われる。縁がつながり、再び野球界に身を投じることになった。

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