選手の“出口”までつくるのがスカウトの仕事
竹下さんはスカウトとして活動する上で、ある先輩の教えを大切にしていると言う。
「選手を入団させるのはチームの都合だ。だからこそ、その後の面倒を見るのがスカウトの仕事なんだ。そのくらいのつもりで選手の人生を背負っていかないといけない。出口までちゃんと面倒見るのがスカウトだ」
なるほど。僕は入口をつくるのがスカウトの仕事だと思っていたけど、出口まで面倒を見る責任があるということは、その間も面倒を見続けないと出口はつくれない。改めて聞くと、合点がいった。
「誰々くんのことが気になるから、様子を見に来ているんだよ」
ベルーナドームや二軍の本拠地CAR3219フィールドで竹下さんの姿を見かけて話しかけると、いつも優しい声で言った。ベルーナドームなら外野の奥、CAR3219フィールドならバックネット裏と、選手から少し距離をとって引きの状態から見守っている。
そうした視線は、担当選手たちにも届いているのだろう。
「竹下さんは、一言で言うなら“お父さん”ですね」
蛭間選手に竹下スカウトの印象を聞くと、そう言い切った。竹下さんは担当選手たちと連絡をずっと取っているそうで、蛭間選手もその一人。だからこそ「お父さん」と言えるのだと思う。
プロ野球には母子家庭から入ってくる選手もいて、その場合、竹下さんは選手のお母さんに「僕が父親代わりになります」と約束するそうだ。蛭間選手のようにご両親がいても“お父さん”という存在になり、ときにはLINEで叱ったり、褒めたりする。
竹下さんはこれまで28人の選手を担当。そのうち松本航投手や宮川哲投手などドラ1も7人いるなか、僕が特に気になったのは2020年ドラフト4位の若林楽人選手。入団1年目から開幕一軍入りして両リーグトップの盗塁数を記録するなど大活躍を見せたが、同年5月末、左膝前十字靭帯損傷の大ケガを負った。
当時の話を聞いてみると……。
「なるべくしてなったと思っています。大学4年の秋に活躍してプロに入ったけど、入団1年目からあれだけ使われていたら、ケガをしても不思議ではないですよ」
竹下さんは若林選手と連絡をちょくちょく取り、体が悲鳴を上げていたことを知らされていた。担当スカウトとしては活躍してくれることが本望だけど、相反する気持ちもあったと振り返る。
例えば前日に「疲れている」と連絡があれば、「今日の試合では出塁しないといいな」と思ってしまうが、そんなときこそ出塁し、盗塁まで決める。そんな若林選手の姿を、竹下さんは「大きなケガに結びつかなければいいな」と複雑な思いで見ていたそうだ。
でもプロ野球選手にとって、一軍はスポットライトを浴びる場だ。晴れ舞台で大活躍している最中、アクシデントに見舞われた。致し方ない。竹下さんはすぐにメッセージを送った。
「足の速い選手にはケガがつきものだ。ケガをした選手も必ず復活しているから、大丈夫だよ」
失意の若林選手にとって、どれほど大きい言葉だっただろうか。
車の納車から、不動産屋との仲介まで
竹下スカウトが行うのは、心のケアだけではない。リハビリ中の若林選手から「移動で車が必要だから、早く納車して欲しいんです」と連絡が来たら、車屋に話をし、その手筈を整える。車が早く手に入れば、若林選手はリハビリに行きやすくなるからだ。
「一人暮らしをするための部屋を探しているけど、いいところがないんですよ。どうしたらいいですか?」
そう聞かれた場合、不動産屋との仲を取り持って早く見つけられるようにする。
つまり竹下さんが担っているのは、僕が身を置く芸能界で言うマネージャーだ。そう振ると、竹下さんはニッコリと頷いた。
「そうですね。僕、マネージャー業をできると思います」
竹下さんはドラ1を多く担当しているので、言わば“大物タレント担当マネージャー”。普通、そうした立場になると気が多少大きくなり、自分の事も大物と勘違いしてもおかしくない。僕は芸能界に32年いるけど、実際、そんなマネージャーをちらほらお見かけする。
でも、竹下さんは違う。横柄な態度は一つもなく、常に謙虚な姿勢だ。
「僕だけじゃなく、スカウトはみんな一緒ですよ。入団してからも、担当選手の事はずっと気にしています。僕は関東の担当だからベルーナドームに見に行けるけど、関西や九州のスカウトはそうはいかない。でも、みんな同じ気持ちですよ」
冒頭の蛭間選手への言葉は、“お父さん”のような愛情とマネージャーのような気配りが生んだアドバイスだった。一軍でも活躍してほしいと、心から思うからこその言葉だった。
竹下さんをはじめとして、ライオンズには愛情深いスカウトが沢山いる。今回、大好きな我がチームに選手を連れてきてくれるスカウトの竹下さんに話を聞いて、改めて感じたことがある。
チームの目先の勝ち負けも大事だが、選手たちがいかに成長していくかを我々も楽しみにしたい。今年のライオンズは正直、波に乗れてない状況だけど、選手たちの成長に目を向けることで未来への光明を見出せるはずだ。
ライオンズファンの皆さん、一緒に見守っていこうではありませんか!
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