足りない、やっぱり足りない。足りない、どうしても足りない。あの笑顔が、あの声が、あのプレーが、いまのファイターズに必要だ。「執念」が圧倒的に足りない。

ラジオから聞こえてきた悲鳴のような声

 4月29日、土曜の午後。新球場・エスコンフィールド北海道でのホークス戦を私は移動中にラジオで聴いていた。「いーまがわーゆうまーーー」と球場アナウンスが聴こえた。

 社会人から3年目を迎える今川選手は今やチームに欠かせない存在だ。自分や仲間を鼓舞する為に叫ぶ「執念!」は今では彼のニックネームと言ってもいいくらいチームにもファンにも浸透している。

ADVERTISEMENT

 札幌出身で子供の頃からファイターズ大好き、ファンクラブに今でも入っていることでファンの親近感も得ている。

今川優馬 ©時事通信社

 私は札幌から新冠町へ向かっていた。馬産地としても知られる町だ。車の助手席で窓の外の新緑いっぱいの北海道らしい風景を眺めながら聴く野球中継。コールの後、打席には5番レフトでスタメン出場の今川選手。

 今川選手の名前は「優馬」、今川家の男兄弟5人の名前にはみんな馬の字がついている。お父さんが同じく馬産地の静内町出身で馬が大好きだからだ。静内町は合併して現在は新ひだか町、私が向かっている新冠町のすぐ隣町。そのエピソードを思い出しながら、「今日は今川選手が活躍するかも」なんてぼんやり思っていた。

 すると突然ラジオから悲鳴のような声が聞こえた。去年までの札幌ドームと比べると、エスコンは球場の形状からラジオの放送席までグラウンドの選手の声がよく届く。主にそれは投手のピッチング時の声で、うめくような叫ぶような、種類としては絞り出す声だ。

 とっさに出るこんな声ではない。え? なんて聴こえた? 「痛い」って言った? 私はすぐにスマホで映像を確認した。今川選手が両掌で脛を抑えながら仰向けになって悶絶していた。自打球が左脛に当たったようだ、ちょうどレガースのないところか。ああ、これは大ごとになる、苦悶の表情からそう察した。

 結果、翌日に登録抹消、左脛骨骨挫傷、骨の打撲だった。折れてはいなくてほっとしたけれど、なかなか治りづらいとされる怪我だ。今川選手自身のインスタには痛々しい患部の画像。その試合まで打率3割1分と好調だった今川選手は無念のリハビリ生活に入った。